酒巻久の名言

酒巻久のプロフィール

酒巻久、さかまき・ひさし。日本の経営者。キヤノン電子社長。栃木県出身。芝浦工業大学工学部卒業後、キヤノンに入社。研究開発部門でVTR、コピー機、ファックス、ワープロ、PCなどの開発に携わり大きな実績を残す。その後、キヤノン電子社長に就任。経営改革でキヤノン電子の利益を5年で10倍にした経営者。主な著書に『椅子とパソコンをなくせば会社は伸びる!』『キヤノンの仕事術』『会社のアカスリで利益10倍! 本当は儲かる環境経営』『最新 情報漏洩防止マニュアル』『企業情報漏洩防止マニュアル』など。

酒巻久の名言 一覧

「あいつはよくやっている」と思われる程度では二流。真の一流は派手なところがない。問題が起こらないように先手を打ち、頑張っているような印象を与えない。

上司の言うことに従順な部下は上司より能力の劣っている者。そういう部下の能力は、だいたい上司の能力の7掛け。たとえば経営者でそれが2代続けば0.7×0.7で3代目は初代の半分以下の能力しか持たない人になってしまう。

その人なりに真面目に取り組んだ末の失敗を、会社や上司は責めてはいけない。それは正しい失敗で、成功につながるプロセスだ。

製品開発では失敗事例にヒントがあるが、経営では成功事例を研究すれば応用できる。経営幹部を育てる場合も、早い段階から目を付けて、いい経験をたくさんさせることが重要。

説得力を生むのは熱意。自分の成し遂げたいこと、それによって起こる良い結果、そしてその根拠を、情熱を持って語ること。

凡人の私たちが努力をしないのであれば、競争に負けて当然。

言い訳は人間をダメにします。どんなときも、自分を肯定しようとすれば、その時点で成長が止まってしまう。

ネットで見つかるのは、誰かが加工済みの死んだ情報です。生きた情報は生身の人間が持っているのです。だから、外へ出て、生身の人間を知る勉強をしなくてはいけない。

仕事で疲れるのは、「やらされ仕事」になっているから。

好きなことなら、睡眠時間を削ってやっても疲れないのが人間です。勉強するだけの体力や時間がないというのは言い訳で、本当は勉強するのが嫌なだけ。

迷いや悩みを抱きながら仕事をしていると、非常に疲れる。でも、「自分がやるべき仕事に邁進しているのだ」という確信があれば、全力で仕事をしても疲れはしない。

努力をしないで仕事も家庭もうまくやろうなんて不可能。

体調管理なんてしようとするから病気になるんじゃない? 好き勝手にやるのが健康には一番いいですよ(笑)。

上にいる者は、改革を行う者を守ってやらなければならない。

信念を持ってやり抜く。その結果うまくいかなかったら、そのときは自分が愚かだったなと思えばいい。そして、なぜ愚かだったのかを考えればいいのです。

大手の企業がよいアイデアを持っていても活かしきれないのは、成功体験者が年を取っていて、その人の長い時間軸で判断するからなんですね。

ムダを省き、能動的な人間を増やすことを追求していけば、たとえ今の利益が1パーセントでも会社は案外早く立ち直るものです。

投書というのはそれが真実でなくても、三回続けばそれを読む人は書いてあることを信じてしまう。

事業はコア技術を他のものと組み合わせてつくっていきます。コストがかからず安全なのは、やはり既存事業の川上と川下です。

ムダを省き、正しい取り組みを正しく評価して社員の才能を引き出す。そうすると間違いなく利益は出るようになります。

会社が倒産する危に陥るのは、たいてい新規事業に関わったときですが、コア技術を活かすことができる事業を行えば安全に伸びていける。生き残っている会社はだいたいそうしています。

失敗を糧にできるのは主体的に仕事をしているから。言われてやる仕事の失敗は、糧にならない。

主体的に、一人称でものを考えて初めて、自分で目標を立て、そこに至る手段を考えることができる。

手抜きの失敗でもせいぜい3回で直る。一番恐いのは、自分の失敗が手抜きだと気づかない人。こういう社員は報告してこないし、同じ手抜きを何度も繰り返す。

初対面は、次回に向けて風穴を開ける機会。だからこそエネルギッシュな熱意が必要。

仕事を通して何がしたいか、世の中にどう貢献したいのか。そこにゆるぎない信念があれば、信頼の獲得と持続、その双方が可能となる。

相手の中である程度、こちらと同じ意識が醸成されていなければ協力は得られない。

上司はしっかり部下を見て助言し、褒めることで部下は自信がわき、見られることで自覚が備わる。いい経験を褒められると本人はそれを覚えていて、次につながるということは医学的にも証明されています。

管理職の生活を守るつもりはないが、現場の人たちの生活は命を懸けて守る。

【覚え書き|キヤノンからキヤノン電子に移り、経営再建に着手したときの言葉】

部下のミスは上司の責任でもある。責めるのではなく、解決策を一緒に探ることが重要。

きわどい報告ほど「よく話してくれた」と褒めると、ミスを隠さずに話すようになり、事故の芽を早期に摘むことができる。

当社では同じフロアの社員にメールを送信したことが3回発覚するとPC没収、5回で降格。面と向かって話せば3秒で済むことを、メールを使うと、執筆、送信、受信、閲読と相手に意図が伝わるまで早くても3分かかるから。

アップルのスティーブ・ジョブズと初めて会ったとき、「キヤノンのプリンターがいいと聞いて見に来た」というので実際に商品を見せたら、「こんな大きいのは私の部屋の棚に載らない」とぴしゃりと言われました。「この人は、常に自分が使う立場で考えているんだな」と感じたのをよく覚えています。天才といわれたジョブズでしたが、彼のモノづくりの基本的な発想は、いつもそこにあったように思います。

記憶力や発想力の低下、時代に対する感性などは、放っておけば次第に低下していきます。40代以降のビジネスマンはそのことを自覚して、若手社員だったころの倍は勉強しなくてはなりません。

私はキヤノンの課長時代、観察ノートというものをつけていました。「3月3日、今日は朝からA部長の機嫌が悪い重要な会議がある日は、どうもA部長は心に余裕がなくなるようだ」といったように、上司や同僚や部下の様子を観察して、気が付いたことをメモしていたのです。これを続けていると、人間への観察力が高まるとともに、周りを巻き込んで仕事をする際に、どういう接し方をすれば彼らがその気になってくれるか、接し方の急所がつかめます。

どんなものでも、できない理由はたくさんあります。でもそれでは仕事は前に進みません。

会社が真に求めているのは、問題から逃げない人、後回しにしない人です。難問に臨まないことには、会社が抱えている経営課題を解決できないし、技術革新もできないからです。

判断力というのは、経験に比例するものです。ですから、それを高めるには、「不安を抱えながらも、スピーディに決断を下すこと」を日々意識して続けることが何よりも重要です。

「自分の判断基準」に自信を持っていれば、いま起きている問題だけでなく、これから起こるであろう問題にも素早く対処することができます。

部下から見れば「こんなつまらないものを」と思える仕事でも、上司からの視点では意外と重要な仕事であることが多いのです。また、部下の力を試したり、鍛えたりするために、あえて曖昧な指示を与えることもありますから。

仮に、上司に途中経過をまったく報告しないまま3か月後に結果を出した部下と、随時報告をしながら6か月後に結果を出した部下がいた場合、後者の方が「仕事が速い」と、上司は感じるものです。だから、上司からのどんな指示に対しても、「サッと気持ちを切り替えて、すぐ報告するクセ」は、絶対つけるべきです。

「なんでこんなつまらない仕事を、俺がやらなきゃいけないんだ」と上司の指示を無視して、ズルズルと先延ばしする。これは部下が一番避けなくてはいけないことです。指示を与えた上司は、できるだけ早いタイミングでの報告を期待しています。今日指示を出したら、本当は翌日にでも報告が欲しいぐらいです。すぐ成果を求めているわけではありません。上司は途中経過が知りたいんです。

もしその判断が間違っていたとしても、失敗から学んだことをまたメモ帳に書き込めばいい。こうしたことを繰り返すことで、問題に対する素早い決断と行動が可能になるのです。

自分が経験できることには限界があります。そこで、私が社会人になったばかりのころからずっと続けているのが、読書で得た学びをメモ帳に書きとめることです。本を読んだら特に重要だと思ったポイントを自分なりの言葉で4つか5つの法則にまとめて、メモ帳に書き込みます。読みっぱなしにしておかないで、そこで得たものを自分なりの言葉で整理・体系化しておくわけです。すると、メモ帳に書き込んだことが、自分の判断基準として蓄積されます。私は40年以上もこの習慣を続けています。

偏差値が高い大学を出ていて、「学校での勉強は、きっとできていたんだろうな」という人にかぎって、大事な仕事や決断を後回しにする傾向が強いように思います。

上司の方針が間違っているときもあるでしょう。でも、正しい方針のときは誰がやっても成果が出るんです。逆に悪い方針のときは部下次第で成果に大きな差が出る。だから上の方針が間違っているときこそ、すぐとりかかって成果を出さないといけません。そうやって頑張っていれば、直属の上司には評価されなくても、ほかの部署の上司が放っておくわけがありません。

「才能をなんとか伸ばしてあげよう」という気持ちで怒ると、意外と人はついてくるものです。

私はキヤノン電子に来てから売上のことなんか言ったことがありません。もちろん結果は大事ですが、人材育成はプロセスが大事です。目先の売上を問題にしても仕方がありません。

以前スティーブ・ジョブズさんと仕事をしたときは、褒め方が上手いなと感心しました。どうでもいいような部下の提案をニコニコしながら聞いて、どこかいいところを見つけて、「すごいじゃないか!」と褒める。ジョブズといったら、当時もいまもカリスマでしょう。褒められた部下は舞い上がって、家にも帰らず作業に没頭するわけです。すると1か月もせずに、本当にすごい成果が出てしまう。

こちらがいいたいことを言う分、部下にも「俺に文句があったらいつでも言え」と言ってあります。「言いづらかったらキヤノン本社に投書しろ。俺はすぐクビになるから」とか(笑)。すると、本当に皆、言いたい放題に言ってきます。

褒めるのは、私は下手です。持って生まれたキャラクターというものがありますから。だから私の場合、部下がいい提案をしたら、すぐに全員に回覧するようにしています。すると、その人は周りから「すごいですね」と言われる。本人に強みを自覚させるには、一番いい手段でしょう。

私は自分の夢を達成するために働いていて、部下はそのために自分に欠けているものを補完してくれる、いわば「手段」です。成果は部下に譲りますが。社員も「自分のため、家族のため」に働くべきだと思います。「俺は会社のために働いているんだ」なんて奴は一番信用できません。

若い人の提案を採用するときに決め手とするのは、数字や論理ではないんです。そもそも「数字や論理ではわからないこと」を決めたいときに、若い人の提案が必要になるわけですから。決め手は「自分はこの提案に命をかけている」という執念が相手から伝わってくることなんです。

若い人の提案に「よくわからんが、やってみろ」という幅の広い会社ほど、よい商品が出てくる可能性が高い。これはキヤノンに限らず、ソニーや東芝だって同じことだと思います。

「何とかこの提案を通したいんだ」とか、「この提案が採用されれば、会社がよくなるんだ」という気持ちが伝わってくれれば、「あれはいい発言だね」となります。

仮に会議でまったく同じ内容の発言をしたとしても、日ごろから光った仕事をしている社員であれば、「彼の着眼点はいつも鋭いね」と評価されますが、たるんだ仕事しかしていない社員に対しては、「偉そうなことを言っているけど、ありゃ口先だけだね」となります。だから、日ごろからきちんと仕事をして、「彼は見どころがある」という評価を周囲から受けることが、会議の場で発言が認められる前提となります。

人の言葉を聞かないで、自分の意見ばかり言う人間は致命傷ですね。会議の場でもよく「おまえ、いままでの議論の何を聞いていたんだ」と言いたくなる発言を平気でする人がいます。こういう人はバカに見えるし、意見が通ることもまずありません。逆に、相手の言葉を受け止めたうえで、自分の言葉を発することができる人は会議の中でも目立ちます。

自分が発言する機会がなかなか与えられない会議に、出席しなくてはいけないときがありますよね。でも、「こんな会議は、出席する意味がない」と思うようだったら、その人間は大成しません。会議というのは、誰がどんな考えを持っているか、自分の考えに近い人間は誰か、本当に発言力を持っているのはどの人物かといったことを、情報収集する場でもあるんです。自分の提案を通したいときにも、まずその人を抑えておくのがポイントになることが見えてくるわけです。

会議の場で、自分の提案ではなく、同僚の提案が通ったとします。なぜ上司がその提案を採用したのかを、自分なりに分析してみるんです。上司が心を動かされる提案と、そうでない提案の違いがどこにあるのか。どうしてもわからなければ、上司に聞けばいい。失敗を活かして、次の会議で出席しているメンバーの心を動かす提案をすればいいんです。

若いころ、会議の場で社長や副社長と怒鳴り合いの議論になることもしばしばありました(笑)。まだ私が平社員だったころ、ある提案を会議に持っていったときに、常務から何度もダメ出しされるといったことがありました。おそらく常務も、私がどれだけ本気なのかを試そうとしていたのだと思います。でも3回目も4回目も否定されるんで、こっちも頭に来て、「若い人間の意見を全否定するような会社では働けません。家に帰ります」といって、本当に翌日から会社に来なくなったんですね。そうしたら、一週間くらいして常務から電話があって、「あの案件、やらしてやるから会社に出てこい」と。

私が若いころ、キヤノンの研究開発部門にいたとき、上司から「よくわからんが、やってみろ」と言われてスタートした仕事が少なくありませんでした。そのなかから、いまのキヤノンの土台を支えている技術も生まれてきています。わからないものを部下にやらせてみたときに、失敗する可能性だってありますよ。だから会社は、ある程度の損は最初から想定しておかなくてはいけません。

たとえば、我々の世代はホリエモンのような「お金がすべて」という発想はできないんです。だけど時代の主流がホリエモンになっているとして、「そんな価値観は受け入れられない」と切り捨てていたら、企業は社会から乗り遅れてしまいます。

なぜ会社で会議が必要かというと、管理職もどうしていいかわからないことがあるから会議をするんです。結論がわかっていることだったら、部下にいちいち議論させないで、トップダウンで指示を出したほうが、よっぽど早くものごとが進みます。でも世の中には、管理職がわからないことがあります。そこで、若い人の発想が必要になる。「我々にはわからない。でも若い連中がそう言うんだったらやらせてみるか」というのがないと会社は駄目になってしまうんです。

一回の提案だけで企画がすんなり通ることはほとんどありません。上司はいろいろと問題点を指摘して、最初はその提案を突き返すものです。けれども、それでもめげずに指摘された点を改善したうえで、2回、3回と提案を持ってこられたら、「やってみたまえ」となるわけです。

部下の文句は抑えつけた方が安全は安全なんです。「文句が出ない=不満や問題がない」と周囲は見てくれる。昔から私のチームは部下が散々私の悪口を言うので、常に「酒巻のところは危ないんじゃないか」と言われていました(笑)。でも、言いたいことを言わせる方がいい発想が出るし、絶対に成果につながります。

私はただいいものをつくりたいだけなんです。それさえ達成できればいい。私が腹を括って仕事できる理由は、「もしも、いまの会社にいられなくなったら、よその会社に行ってでもやればいいや」と思えるからなんでしょう。

部下に強く言うためには、相手を知っておかないといけません。たとえば遅刻の多い部下がいるとすれば、もしかしたら奥さんが病気がちで、子供を保育園に送ってくるために遅れてしまうのかもしれない。そういう情報があったら、「お前の遅刻は仕方がないから、30分遅れるのは認める。その代わり、30分遅くまで働いて帰れ」と言ってあげる。もちろん、事情を知っているということは表に出さずにです。そういう情報に詳しい人が、社内には必ずいるはずです。本人に聞くとかえって委縮させてしまうこともあるので、周囲からそれとなく情報収集するのがコツです。私は初めて管理職になったころからやっています。

部下によく言うのは、儒教でいう「恕(じょ)」です。つまり、自分がされて嫌なことはするな、ということです。そこから一歩進んで、相手をどう助けるかを考える。これだけは守ってほしいと繰り返しています。別に生き方に干渉しようというのではないんです。会社を一歩出たら裸で歩いたっていい(笑)。ただ、仕事中だけは、業務として「恕」であってほしいのです。

素直じゃない考え方、色眼鏡をかけてものごとを見ていては駄目です。だから、「偏見を持たず、ものごとを素直に見なさい」と部下によく言っています。素直というのは、上司からの忠告をちゃんと受け入れるということもありますが、部下や後輩の意見だろうと、競合他社の製品だろうと、対象の粗探しをするのではなく、優れたところを見るようにしろということです。素直にものごとを見る姿勢は、ビジネスマンの一番の強みです。

自分は古典を答え合わせに使っている。何か問題があったら、まず自分でどうするか考える。出した答えと同じようなことが古典に書いてあったら、それは正解だと思うようにしている。古典にこう書いてあると人を説得しやすい。

ビジネスの現場でも、読書でも、セミナーでも、かぎられた自分の守備範囲だけではなく、その外からのアイデアや情報も入れること。それは必ず糧となります。

ビジネスの勉強はあくまで実践ありき、というのが私の持論です。座学は、実践で学んだことの確認として位置づけるべきでしょう。日常での仕事の進め方や判断で、自分としては正しいことができたと思っていても、それはあくまで自己評価です。「本当に間違っていなかったか?」「よりよい方法はないのか?」そういうことを座学で確認するわけです。

ある意味では、部下は先生なのです。彼らの話に耳を傾けること。それこそが、40代がすべき勉強だと思います。100人いれば100の意見があることを、身をもって理解すること。そして、彼らのアイデアを具現化するためには、自分がどのようにサポートすればいいのかを考える。自分のもっているスキルや人脈を改めて見直す。さらに、できれば自分のサポートが適切であったかどうかを部下に聞くのです。

自分の能力の中だけで仕事をしてきた人が重要なポストについたら、組織が硬直します。反対に、部下の意見に耳を傾ける力を身につけていれば、自身の技術力や営業力が衰えても、十分に戦えます。むしろ上に行けば行くほど、力を発揮できるはずです。

部下の提案のなかには、課長がダメだと思っても、やってみたらうまくいくものが多くあります。私自身のこれまでの経験でも、たとえば、複写機の技術的課題について、私が「ダメだろう」と思った部下のアイデアがうまくいって、キヤノンの複写機が市場に広まったということがありました。もちろん、やっぱりダメだった、というものもありますよ。しかし、まずはやらせてみる。そして、その結果をみて、自分の判断が正しかったか、間違っていたかを反省する。これを繰りとが重要です。

課長職の人は、それぞれが豊富な経験をもっています。それゆえに、若い部下からの提案を自分の判断で却下してしまいがちです。もちろん、部下からの提案のなかには稚拙なものもあるでしょう。ダメ出しをするほうがラクでしょう。でも、それではチームのなかから新しいものが何も生まれてこない。だから、弊社では課長職に部下の提案を却下する権限を与えていないのです。その代わり、課長の責任を問うこともしません。

40代で身につけるべきは、自分の考えを部下に押しつけるだけでなく、部下の意見をきちんと吸い上げて、チームとして力を発揮させることができる能力です。

若いころは優秀だった人が、40代になってから伸び悩む。そんな事例を私はたくさんみてきました。少し厳しい言葉になりますが、どんなに優秀な人でも、チームマネジメントができなくては使いものにならなくなってしまうのです。

いまの40代にも、20代、30代のころとそれほど変わらずに、最前線を走り続けている人が多いのではないでしょうか。体力にもまだ自信があるし、若い世代に負けない経験という武器がある。しかし、その先を考えるなら、ただ走り続けることに熱中しているだけではダメです。技術者なら技術の面で、営業マンなら営業力の面で、どんなに努力しようとも、若い世代と勝負できなくなるときが、いまにやってきます。できる人ほど「自分は大丈夫」と考えてしまいがちですが、考えを改めたほうがいい。そもそも、求められるスキルが変わってくるのですから。

「キヤノン中興の祖」と言われた賀来(かく)龍三郎氏も、毎日3時間は勉強すると言っていましたし、私も50歳までは第一線の能力を保ち続けていたと自負していますが、それこそ40代は寝る間も惜しんで勉強していました。

専門能力というのは、とくに40歳を過ぎたあたりから、年とともにどうしても衰えてきます。私の関わっている設計の分野などはとくにそうですが、40を過ぎても第一線の能力を保つには、20代の頃の2倍、3倍の努力が必要になります。これは仕事もスポーツも同じようなもので、最近は40代で活躍するアスリートが増えていますが、彼らはきっと、見えないところで若いとき以上の練習をしているはずです。だからこそ、無駄な残業なんてしている暇はないんですよ。

私は人に対する「気遣い」には、二つあると思っています。ひとつは、「自分自身に気を遣うこと」で、もうひとつは「他人に気を遣うこと」です。自分の能力以上の仕事を請け負ってしまう人は、人に気を遣っているようで自分自身に気を遣っているから、結局は周りに迷惑をかけてしまうのです。

コミュニケーションは直接対面して話し合うのが一番早い。メールや電話にばかり時間をかけている人はたいてい、残業が多いのはそのためです。だから私は「同じフロア内でのメール禁止」というルールも掲げています。

朝一番でメールを読む人は多いと思いますが、私に言わせればこれほどの時間の無駄はありません。朝一番の最も頭が冴えている時間に、人からの連絡に返信するという受動的な作業に費やすなんて、非常にもったいないことです。

上位の役職者の指示を優先するのは、仕事をするうえで使える権限もより大きくなるからです。この「上司を巻き込む力」があれば、仕事の速度は一気に高まります。

迷ったらさっさと上司に相談すればいいのです。たとえば、上司に「あなたの仕事を先にやるつもりですが、実はお客様からもこういう仕事を依頼されています」と相談すれば、上司はどちらを優先すべきか判断してくれるでしょう。その結果トラブルになっても、その責任は上司が取ることになります。

組織で働くサラリーマンにとって、最も優先度が高いのは上司の指示に他なりません。社長の指示が一番で、次が副社長。悩んでいる暇があったら、上の人の指示から順にこなしていけばいい。

重要なのは、今抱えている仕事を、「自分次第で何とかできるもの」と、「自分だけでは対処できないもの」に分けることです。もし前者であれば、考えるも何も、とにかく今すぐ全力でやればいい。後者であればすぐに手をつけず、様子を見る必要があります。やはり、考えてもどうにもならないのですから、考えるだけ無駄です。

私は悩んで集中できないとき、家に帰って徹底的に掃除をするようにしています。手と身体を使い、目の前のホコリを取ることや床を磨くことに集中する。そうやって半日も掃除をしているうちに、「実はあのことは、それほど悩む必要がないんじゃないか」と思えてくるのです。私は脳科学者ではありませんから、正確なところはわかりませんが、頭を使っているときと身体を動かしているときとでは、使っている脳が違うような気がします。だから、集中して手や身体を動かすことで、不思議とそれまで見えなかった解決の糸口が見えてくるのかもしれません。

ある仕事になかなか手をつけないので理由を聞くと、「考えてました」と言う人がいますが、そんなのは「考えているつもり」つまり「悩んでいる」にすぎません。

真っ先に手をつけるべきは簡単な仕事です。たとえ仕事全体の2割しか占めていない仕事でも、それを片づければ残りの8割に全力を注げます。精神的にも肉体的にも負担が軽くなり、仕事もスムーズに進みます。難しくないぶん、早く終わらせることもでき、終わったときの達成感も得やすい。まずはそうして「圧力を減らす」ことが、時間に振り回されないために必要なことです。

時間に追われてどうしようもない状況に陥ったら、まずはとにかく「自分にかかっている圧力」を減らすことです。そのためには、最初にやるべきことをひとつ決め、それを片づけることです。

いつも「忙しい、忙しい」と言っている人の多くは、あれもこれもやらなければと焦り、悩むだけで、一向に手を動かしていなかったりします。その結果行き詰まり、ついネットサーフィンをして時間を浪費し、さらに悶々とする……。時間に追われている人というのは、実は単に仕事の整理ができていないことが多いのです。

一流のビジネスマンは即断即決です。素早く判断し、それが間違っていれば反省し、次の行動に活かす。だから一流の上司は部下がまだ入社3~4年のうちに、自分で判断する機会を与えて訓練させます。そのくらいの年次で犯すミスは規模が小さいから、会社が潰れるほどの影響がない。

最初から「やったことがないからできません」などと決して言わないでほしい。仕事は新しいことに挑戦することだから、あなたがやったことがないのは当たり前。難しい問題をどう乗り越えるか、情熱を燃やして主体的に考えながら、前に進んでほしい。

企画を2度持っていってダメなら3度持っていく。最後は上司も情熱に押されて「やってみろ」と言わざるを得ないですよ。上司に「やってみろ」と言わせたら、しめたものです。今度は上司がその企画の責任を背負うことになりますから(笑)。

あえて失敗せよ。世の中が激しく変わっている時代、現状を守るだけではダメ。そんな人間がはびこる組織は、やがて潰れてしまう。だから失敗を恐れずどんどん新しいことにチャレンジしてほしい。

どんな国のどんなメーカーでも、たとえそれが競合他社だとしても、助けを乞われれば私は手を差し伸べます。そうすることによって、あのとき助けてもらったから今度はこちらが、と助けてくれる人が必ず現れる。それが当社への発注という形に結びつくことも多いし、そうした相手は絶対にほかの会社に浮気はしない。私は日頃から「もし相手が困っていたら会社を裏切ってでもやりなさい」と言っています(笑)。

若い頃は、せっかくこちらが相手に親切にしても、裏切られたり恩をあだで返されたりして、受けるショックの方が大きかった。ところが、人生経験を重ねるにつれ、人に親切にすれば、それが9割以上はいい形で返ってくるということが分かってきました。

以前うちの子会社の人間が、自分が原因で発生した納期ミスを、メールの謝罪だけで処理しようとしたんです。「君を信頼して注文してくれた相手の立場はどうなるんだ。すぐに新幹線に飛び乗って直接お届けしなさい」と私は怒りました。結果は、誠意を伝えることができ、相手との関係はより深まったそうです。

メールは相手の都合を気にせず送れて確かに便利ですが、メールに頼りすぎると、顔の見えるコミュニケーションが阻害されてしまう。特に本来ならば会って伝えるべき謝罪などの用件を、メールで済ませようとするのは最悪です。

手書きの文字には書いた人の感情が表れますから、相手もそれをきちんと読む。手書きの文字の体温やぬくもりは、メールや印刷した文字とは決定的に違う。

書くという行為は、自分の考えをまとめる訓練になるので、課長以上の役職者には週1回レポートを提出させています。1年も続けると、ポイントを押さえた文章が要領よく書けるようになるので、部下に対する指示も的確に行えるようになる。

技術的なことはもう若い人にはついていけないけれど、特許や契約といった法務関係の問題なら、私の方がはるかに経験も知識もあるので、困ったことがあれば時間の許す限り相談に乗っています。

朝起きたら風呂掃除をして、洗濯機を回し、時間があるときは干すのも私がやります。帰ってから洗濯物を畳むのも私の役目。女房に頼まれたことを断わってケンカになってもストレスが溜まるだけでしょう(笑)。家庭も職場と同じで、相手をよく観察して、お互いの意見を尊重しなくてはいけませんよ。

埼玉県の秩父にある本社から社員が東京に打ち合わせなどに出るときは、「仕事が終わってもすぐに帰るな」と言っています。せっかく東京に出たのだから、私のように絵画や映画を観てもいいし、デパートや量販店で売れ筋商品やお客の様子を観察してもいい。なんなら実際に商品を買った人に「なぜこれを選んだのですか?」と聞いてみてもいいじゃないですか。会社でネットサーフィンをしているより、よっぽどリアルな消費者の声を聞けるし、アイデアが浮かぶきっかけにもなります。

「会社が雑用しか与えてくれない」と言う人がいますが、私なら雑巾がけだって好きになれますよ。私なら、「雑巾がけでは誰にも負けない人間になろう」と考える。そして、机や床をピカピカにするには、雑巾を絞るときにどのように力を入れるか、一度につき何回絞るのがベストか、などを真剣に考えます。こうして工夫しながら、より速く、より完璧にできるようになる自分を感じるのは、どんな仕事でも楽しいものです。

これは表現にいくらか問題があるかもしれませんが、私は「道具として愛されれば、それでいい」と考えています。人間として愛されるのではなく、特筆すべき技術やスキルを持った、優れた“道具”として必要とされればいいのです。たとえ人間的には好かれなくても、「この仕事は彼に任せておけば間違いない」と思ってもらえれば、仕事のチャンスはいくらでもまわってくるでしょう。「“道具”として愛されればいい」と割り切ったほうがラクですし、ビジネスの世界でずっと必要とされ続けるのは、“道具”として愛される人間だというのが私の考えです。

“全力投球”の中身は年代ごとにそれぞれ違ってきます。20代は専門分野の基礎技術をしっかりと身につける。30代は、20代で学んだことを人に伝える能力を磨く。40代は、人を使う力をつける。そして50代は、事業全体を見渡し、経営に必要な判断ができる人間になる。年代ごとに、その都度、必要な全力投球の仕方があるのです。

20代を全力投球すれば30代まで持ちこたえられる。30代を全力投球すれば40代も、40代を全力投球すれば50代も持ちこたえられる。そして50代をどう過ごすかが勝負で、ここで全力投球すれば、60代、70代まで頑張れる。

国内外を問わず多くの交渉で成功したのは、事前に相手を知り尽くしていたからです。

まずは試しに仕事を与えて様子を見、結果と照らし合わせることにしています。数回チャレンジさせて結果が出なければ、こちらの第一印象が違ったということです。

成功者が着目するのは損得や儲け話ではなく、そのプランがもたらす社会的意義。世の抱える問題を解決できるか、といった話に心を動かされる。

支援を求める相手は、多くの場合「成功者」です。つまり、自分も若き日に夢と大望を持ってチャレンジをした人です。そうした人物は、熱意ある者にかつての自分を重ねます。周囲の理解を得られぬ中、あきらめず奮闘した経験なども蘇るでしょう。その記憶が心に火をつけ、「応援しよう」という気持ちを起こさせるのです。

誠実さとは、相手に忠誠心を見せることではありません。相手の意に沿うことばかり考えるのではなく、時には「この案を採用しないなら、他に持って行きますよ」という強気も見せる。相手に対してではなく、自分の目的に対して忠実であること。それが結果的に、その人物の揺るぎない信頼性の証となります。

小手先の印象操作にさほど意味はありません。服装や礼儀、所属する組織の信頼性といった要素も大事ですが、本当に重要なのは「何を語るか」です。

自分と年齢や体形の近いプロゴルファーのフォームの分解写真をコピーし、自宅や会社の壁、天井などに貼り、常に意識するうちに、体得できるようになる。会社経営も一緒で、私は過去の事例を研究し、どうやって改革したのかを参考にしてきました。これは新製品開発でも同様です。

リーダーシップを発揮すべき際に重要なポイントは、明確で具体的でなければならない。「分かりやすいビジョンを示す」「ビジョンを実現するために、多くの人の心をつかみ、共感を呼ぶ」「日々起きる様々な課題について決断する力を持つ」という3点が重要。これを踏まえ、最後までやり抜く、と。

「書く」行為を重視し、自分自身、経営判断を下す立場になった今でも続けています。誰かの発言、やるべきことなど、気になったことはノートに書く。書くと、目標を確認でき、考えを深めることができます。

「書く」行為こそ、仕事に向かう姿勢を変え、成長をもたらす。仕事内容や目標を改めて書き出すと、行動を見つめ直すことができ、今後の指標がはっきりする。当事者意識を持って効率的に働けるようになる。逆に書かないと、目標が曖昧なまま、走り続けてしまう。

雑談を重視しているのは、会議では伝わらない「際どい話」を共有できるから。ミスの8割が「言ったつもり」というコミュニケーション不足によるものです。雑談でコミュニケーションを活発にすれば、そうしたミスは防げます。雑談文化が根づいたことで、不良品の発生による返品率が150分の1以下になる効果もありました。

雑談を促すために、社内の随所に立ち話がしやすい「立ち会議テーブル」を設置したり、同じフロアの社員同士でのメールを禁じたりしています。私自身も毎朝6時半に出社し、1時間近くコーヒーを片手に社員と雑談しています。

肝心なのは学歴で人選しないことです。選択は感性に関わるので、学歴で測れない場合が多い。中学校や高校しか卒業していなくても、時期が来たら社員には同じ教育を与え、その中から選択できる人間を見極めることです。持続する人は他社から持ってくることも可能ですが、選択する人はたとえ小さな会社であっても社内で育てなければいけません。結局、経営は人に尽きるのですから。

選択できる人をどうやって育成するか。それには経験をたくさん積ませることが大切です。座学3割、実学7割。現場でたくさんの経験を積ませると、30代くらいでよい選択力がつくようになります。

ノーベル賞の受賞者たちは別として、選択と持続の両方をできる人間はほとんどいません。選択できる人は飽きっぽい人が多いので、分かってしまったらその先が続かない。どちらもできる人はまれですが、どちらかできる人はかなりの確率でいます。だったら組み合わせればいいのです。選択できる人に選択させ、その先は持続できる人に任せていく。これは意外とされていないことです。

重要なのは、ドラッカーの言う「選択と集中」です。まさに、選択しなければなりません。ただ、日本の企業が間違っているのは、選択できない人に選択させていることです。選択できる人を育成する必要があります。

私は生産の現場でも「5年間放っておいた機械を3年後に使うことはない、必要ならばそのときに買え」とよく話しています。古い機械では新しいものに勝てないのです。さっさと売ってしまう、あるいは捨ててしまうことが肝心です。

まずやらなければいけないのは多角事業の見直しです。事業を多く持っていても、すべてが世界のトップになれるわけではありません。平均すると結果的に弱い企業になります。自分たちのコア技術は何か、それがナンバーワンになっているのかを見直して、採算性を重視した事業の絞り込みを行うのです。現在は儲かっていないが十年後には儲かるという事業はほとんどないと言っていいでしょう。

事業には目標設定が非常に重要です。社長でも課長でも、どのようなポジションにいようとも、自分たちがどのような会社にしたいのか、どのような物をつくりたいのか、必ず目標を決めなければいけません。そうでないと、どこへ向かっていいのか分からない。

商品開発については、開発したものが商品として確立するのは約3割です。しかもそれは世界の平均値で、日本はもっと低い。まったくの新規企業ではさらに低い数値になります。売上の8%を研究開発費として使っても、商品化できるのは千個のうちひとつあるかないか。非常に厳しい世界です。経営者はその感覚をきちんと身につけておかなければなりません。そのうえで新しいものを見つけ、持続の努力を続けることが大切です。

なぜ私が利益を優先するのか、それには理由があります。儲かっていない会社は社内に緊張感がないんです。緊張感がない人間が開発に携わると不良品が出ます。利益が出る体質をつくり、現場が緊張感を持つようになってから研究開発をしても十分間に合います。結果的にそのほうが、効率がいいのです。

確実に利益を出していくためには、成果が出たら“その時点で”社員を評価することが大切です。私たちは、利益が出たら、その年のうちに上がった分のいくらかを社員に与えます。ムダを省けばそれだけ給与が増えるという感覚を皆が身につければいい方向にいく。そして、がんばった人やチームには、ほめ言葉をたくさん入れた表彰状を渡します。表彰状の最後には「あなたはキヤノン電子の宝です」という一文を必ず入れて。

長い年月の事業ほどムダが多いんです。生産方法を30年間変えていないのに、社員の給与は8倍に上がっている。それは会社に損害が生じているということですね。給与を変えないなら、生産時間を8分の1にしなければいけません。日本企業は今、どこでも同じ問題が起きています。

コストダウンを図るとき、いわゆる“濡れ雑巾を絞っていない会社”はあっというまに2分の1になります。これ以上無理だと言われても、私は「濡れ雑巾をバスタブの中で絞るな。外へ出して絞れ」と言っています。

キヤノン電子が目指しているのは世界トップレベルの会社です。何をもってトップというのか。経常利益を15%出すことです。今まで赤字だった会社がいきなりそこまでは無理だろうという人が大半のなか、私は末端の人たちにも「15%出すためにがんばろう」と説明して回りました。

自然界のアリの話はよく知られています。働きアリは全体の2割だけ。8割は遊んでいるという生態の話です。そして働きアリの2割を全体に見立ててみると、その中でそれなりに働いているのはまた2割だけ。それが自然の法則なのです。社員の意識改革も全員を対象にするのではなく、有効な2割に徹底的に働きかければ組織は十分に機能するのではないか。それが私の持論です。多くても3割の人を改革すれば、問達いなくあとがついてくるでしょう。

私は、人を採用するうえで大切なのは、まず相手の立場に立って考える優しさがあるかどうかということ、そして次に健康だと思っています。それが必要条件。頭がよいかどうかは、私に言わせれば十分条件です。

営業と研究開発の優れた人は一緒です。なぜなら、研究開発で最も優れた人は、必ず相手の立場に立ってものを考えるからです。困っていることを解決するのが、よい商品に直結します。営業もそうです。ただ自分の会社の製品を買えと言うのではなく、相手が何を要求しているのかきちんと耳を傾け考える。問題はそのセンスを持っているかどうかで、研究開発も営業も基本は同じなのです。

能動的な働きをしてもらうには、実践を見てもらうのが一番早い。キヤノン電子では、他社の社員を招き、私どもの作業工程を見せることがあります。ボランティア的な取り組みです。実際に見てもらって、彼らに考えるきっかけを与える。そして、自分たちにもできるんだと思ってもらうことが早道です。その中には、約2年で利益率が2%から11%まで上がった会社もあります。

利益が出るか出ないかは、働いている人が能動的か受動的かによって大きく違います。自分で考えて積極的に行動する人間か、指示や命令を待つ人間かという違いです。後者が多ければ会社は黒字にはなりません。指示した人がいなければ現場は遊んでしまうからです。

当たり前のことながら、ムダの多い会社は利益が出ません。『フォーチュン』誌の企業ランキングに載るような会社は、売上に対してムダの率が7%前後です。そうでないと、平均して15%から20%の利益は出せない。反対に、利益が1%の会社はムダが30%あると見てよい。これは人件費も含めてのムダです。

目標はタイムリミットと工程がセットになっていることが必須です。最終期限のない目標は意味がありません。何年何月何日までに目標を達成するのか期限を決めて、そのあいだにマイルストーンを置いていくのです。

目標は形で表すとしたら、5行で書けるくらいのものがいい。トップから末端の作業者まで、一目で方向性が分かるもの。A4サイズの用紙に2頁も3頁も書かれたものはまず成功しません。末端の作業者が読まないからです。読まないということは指示待ちになるということです。作業者も同時に目標を覚えてくれないと、現場がのんびりする。スピードに対応できないのです。

試作の速さはものすごく大切です。なぜなら、商品開発が成功する確率は約3割だと言われていて、試作が速ければ、開発の方向が間違っていても即座に変更に対応でき、成功の確率を上げていけるからです。

キヤノン電子の開発部門には70歳以上になっても現役で中心的な役割を担っている社員がいます。彼らは例外なく、退勤後の自分の時間を生かし、たゆまぬ自己研鑽を重ねてきた人たちです。私はよく、「3、40代になったら、20代の2倍は勉強するべき。50代は3倍勉強するべき」と言っています。

技術や販売網の構築に時間と手間がかかったアナログ時代は、ヒト・カネ・モノを握る大企業が勝ってきましたが、これからは意思決定が早く、小回りの効くベンチャーが勝つ時代です。「ちょっと待て」という判断が、命取りになる時代なのです。

「仕事を手取り足取り教えてやろう」という考えが間違い。上司は方向性だけ示して、部下に自分で考えるクセをつけさせるべき。いつまでも上司が助けないと何もできないチームより、各自が主体的に動くチームのほうがムダなく速やかに成果が出るのは当然です。仕事が速い人は例外なく、人をうまく動かす人です。

交渉後の持ち帰りはムダ。せっかく交渉に行ったのにその場で結論が出せず、「社に持ち帰って検討します」というケースが、とくに日本企業にはあまりに多い。海外の企業から見ると「何しに来たのだ」という話です。権限を持たない部下を派遣することは、まったくの時間のムダです。

工夫によってはいくらでも効率化の余地はあるはずですが、いきなり「効率を20%上げろ」というのは無理があります。私はそんなとき「労働時間を従来の3%減らす代わりに、5%だけ効率を上げろ」と言います。これなら努力次第でなんとかなりそうですよね。

会議は会議室で座って進めるものだという意識では、会議の進行は遅くなり、そもそも会議室を用意する手間もかかります。そこで、「立ち会議」を提唱し、オフィスの一角に高い机を用意し、立って会議するスタイルを採用したところ、意思決定のスピードが格段に上がりました。

「朝イチでのメールの禁止」のルールをつくったのは、朝の最も頭が冴えている時間にメール処理に時間を取られるのは明らかに無駄だから。そもそもメールはムダの多いコミュニケーション手法であり、キヤノン電子では原則、同じ部署内でのメールは禁止にしています。

会議、商談、視察などの社外交渉では、「相手の出方をうかがおう」という姿勢では、勝ちは取れません。探り合いや情報共有、社に持ち帰るといったプロセスは一切ムダ。勝負は、事前に相手の情報を調べ、複数の交渉手段を考えておく準備力で決まります。

自分の専門以外の分野も勉強することを意識してほしい。経営やマネジメントや専門分野の本を読むだけでなく、芸術作品にも触れるなどして、本質を見る目を磨いていってほしい。一見、無駄に思えるようなそうした勉強が、あとになって大きな力になってくるのです。

多くの優れたものに接していると、やがて本物にはジャンルを超えた共通項というべきものがあることに気づくようになります。すると、機械の図面を見ていても、経営計画書を見ていても、本物と偽物を直感的に見抜く力が身につきます。冗談のような話ですが、これは私の実感です。

スティーブ・ジョブズは彼自身が新たに発明した技術はひとつもありませんが、広い視野と知識を持ち、それを頭の中で融合させることで、人々が驚くような新しい製品を世に送り出すことができたのです。

技術力が高い人ほど、自分の専門性にこだわります。そこで私は、「ある専門分野では彼には勝てなくとも、総合力で勝負すれば太刀打ちできるんじゃないか」と考えました。ある優秀な人の専門能力を100点とします。自分は逆立ちしても同じ100点は取れない。けれども、電気で55点、化学で55点、機械で、経理で、マネジメントで……というように各分野で55点を取ることなら、努力次第でできます。55点というのは、学校でいえばギリギリ落第しない「可」のレベルです。ですから自分の能力を、できるだけ多くの分野で「可」をとれるレベルに持っていこうというわけです。こうして自分の能力の守備範囲を広げていくと、「この技術とあの技術を組み合わせれば解決できるのではないか」とアタリが付けられるようになります。

自分の所属する部署の外で「これは」という人物を見つけたら、「勉強のために教えていただけませんか」と教えを請うたらいいでしょう。その代わり、相手が助けを求めてきたら、こちらもサポートする。そうした人間関係を築いておくことも重要です。

いまは、各分野の専門家が力を合わせてひとつのプロジェクトを進める、という仕事のやり方が大半だと思います。別分野でわからないことがあったとき、「この部分はどうすればいいの?」と気軽に聞ける人物が社内外にいれば、状況を一気に打開できます。仕事を進めるために、人脈は欠かせません。

いい常識は、いい創造力を生みます。常識を具体的にいえば、実業高校の教科書レベルの知識です。ビジネスマンなら誰でも十分身につけられるような内容です。そうした常識を、意識して広げていくことが、豊かな想像力につながります。

ヘンリー・フォードも「成功の秘訣は相手の立場で物事を考えることだ」と述べています。ただそれは、相手にいい人と思われようとすることとは違います。相手に気をつかっているようでいて、実は自分に気をつかっているなどということはないか、一度自分を振り返ってみる必要があります。

身近な人間に対する観察眼を磨くことは、会社以外の人物や社会全般の動向を観察し、判断する目を磨くことにもつながります。

もし部下の様子がなんだか変だなと気がついたら、ひとこと声をかけてあげることが大切です。話を聞いてもらうだけで部下は楽になるでしょうし、「お前には期待しているから、何かやりにくいことがあったらいつでもいってくれ。できる限りサポートするよ」と言ってあげれば、後ろ向きだった部下の気持ちを前向きに変えていうこともできるでしょう。

40歳前後になると、部下もできますし、上から与えられた課題をこなすのではなく、自分で課題を見つけ、それを解決することを期待されるようになります。

私の考えでは、仕事に必要なのは「技術力(専門力)」と「相手力(人間力)」のふたつの力だと思います。技術力とは、ある分野についての専門的な知識や技術を持ち、与えられた課題を的確にこなす能力。相手力とは、相手の立場に立ってものごとを考え、相手をその気にさせて動かす力のことです。

若いときに「あいつは優秀だ」といわれていた人が、40代になったときに必ずしも優秀であり続けるとは限りません。逆に若手のときには目立たない存在だった人が、いまでは役員や社長を務めているというケースはいくらでもあります。これは30代と40代以降とでは、仕事に求められる能力が変わってくるからです。

専門書やビジネス書の場合は、まずそのとき自分が知りたいテーマを扱った本を何冊も読みます。それだけでそのテーマに関する論点を把握できますが、重要なのはその際に自分の仮説を持っておくことです。

最近の若い人は、とくに学歴の高い人は、難しい本を読んだという経験だけで物知り顔をしがちだと感じます。何かの本を「読んだことあります」という人に、私はよく「そこから何を学びましたか」と尋ねるのですが、ほとんどの場合まともな回答は返ってきません。読書が身についていないのです。

月に40冊前後本を読みますが「難しい本を無理して読むより、わかる本を読む」というのが私の読書の基本です。易しい本ばかりを読めというわけではありませんが、歯が立たない本を何時間もかけて字面だけ追っても、それでは読んだだけで終わってしまいます。読書はそこから何かを学び、自分なりの考えを人に語れるようにしなければ意味がありません。

ピンチをチャンスに変えることはできます。私がキヤノンで設計の総責任者だったとき、アメリカで製品にトラブルが発生し、営業マンから、「向こうの代理店の社長がもう取引停止だとカンカンに怒っている」とSOSがきました。急いで現地に赴いて謝ると、「わざわざ日本から責任者が来てくれたのか」と逆に感謝され、その後さらにビジネスが拡大しました。

部下の真価を見抜き抜擢できる上司が一流。しかし、抜擢ならぬ、出る杭を抜いて摘み取る「抜摘」ばかりする二流の上司が実に多い。一流の部下は問題の本質に気付く鋭敏な感性や柔軟な思考力があるから、上司が間違っているときはハッキリものを言う。だから生意気に見える。二流の上司は一流の部下を煙たがり、二流の部下ばかり出世させ、あげくに会社が潰れてしまうのです。

上司に企画を提案する時は、2度突っぱねられてもまた提案する。それくらいでないといけない。大体、管理職は経験を基に、より安全な道を選ぶ。斬新な企画を1回で通す上司など、大企業にはまずいない。跳ね返されると自分の企画に改良の余地があることが見えてくるもの。再度、ブラッシュアップするんです。

100%の新製品が成功する確率は0.2%しかない。しかし、いまある製品の後継機種では世界平均で30%、日本でも20%台に跳ね上がる。過去にあった技術、考え方で使えるものはないかとまず徹底的に調べてみる。その上で、過去の失敗事例を研究する。古いアイデアを最新の技術で作るのが量産物では成功への一番の近道。

勉強の半分はPCなり、ITなり、時代にキャッチアップするための内容。そして残りの半分は、将来を見据えた次のステップのための勉強です。専門分野を掘り下げつつ、周辺分野も広げていく。たとえば、経理なら会計の勉強だけでなく、経営や人材マネジメントなどにも目を向けて守備範囲を拡張する。それが次のキャリアにつながっていきます。

時間に追われている人は、実は仕事の整理がついていないケースが多い。中でも最大のムダは、同じ失敗を繰り返すこと。何が失敗要因で何が成功要因だったかを検証しないから、同じ間違いを繰り返す。経験を次に生かす視点を持たないと、コンスタントに成果が生まれることはありません。こうした仕事の仕方が身につかないままでいると、いつまで経っても同じところをグルグル回るだけで、忙しさに追われて何もできない、ということになりがち。

会社が戦略としての時短を打ち出すことで、社員の意識改革が進み、新たな業務効率化の知恵が生まれてくる。その結果として効率化が進み、社員が各自スキルアップする時間が生まれることで、事業の質が高まっていく。そして、会社がさらに進化していくのです。時短戦略は社員のみならず、会社を質的に向上させ、強くする最善の方法なのです。

政府と経済界が主導する「プレミアムフライデー」では、時短はあたかも仕事を早く終えて飲みに行くためにあるように思えますが、それは大きな間違いです。仕事の効率化によりできた時間で講演会に行ったり本を読んだりして新たな知識を得たり、自分の将来を考えたりという「成長戦略」にこそ使うべきなのです。ただ飲んで憂さ晴らしをするだけならなんの発展性もありませんし、第一健康にも悪いでしょう。

「オレは知らなかった、早く言えばオレが何とかできた」と怒るのは自分の不甲斐なさに言い訳をしているだけ。優秀と言われる人が集まる会社でもこういう上司は多い。普段から部下の人間性をよく理解し、コミュニケーションがとれていれば、そんな言葉は出ませんし、そもそも降ってわいたようなトラブルも起きないはず。一流の上司は常に「こんな問題が起きる可能性がある」「問題が起きたときは一緒に考えよう」と部下に声をかけていますから。

私はスティーブ・ジョブズ氏がネクストコンピュータを立ち上げた頃から付き合いがありました。実はその頃から、今のiPadのような製品のアイデアはあったのです。しかし、ユーザーがそのレベルに達していないし、キーボードの時代がまだしばらく続く、液晶やタッチセンサーの技術が良くない、メモリのスピードも遅いなどで、ジョブズ氏は早過ぎるからダメだと否定した。そして、技術など環境が十分なレベルに達した時に製品化した。過去の延長線上に未来はないと言いますが、特殊な例外を除いてそれは間違っています。

キヤノングループの企業理念は「共生」です。すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会を目指すことです。私は経済学者ピーター・ドラッカーが唱えた人間尊重の経営に共感しています。理系出身の私は、同じく理系出身でシティ・バンクのジョン・リード元頭取が行った改革を参考にしました。「不良資産の縮小」「人員削減」「不採算部門の閉鎖」「子会社の整理」「採算割れ部門からの撤退」の5つです。ただし、人員削減は最後の最後。時間、スペース、不良(品)、人・物の移動距離、二酸化炭素の排出量などを半減させる改善活動「TSS1/2(タイム&スペース・セービング1/2)」を徹底的に推進したところ、4年後の2002年に目標を達成しました。

【覚え書き|キヤノン電子の経営再建時を振り返って】

交渉では先に提案したほうが優位に立てます。アメリカのある企業との交渉のときのエピソードです。そのとき私はスティーブ・ジョブズと組んで仕事をしていたのですが、ジョブズが交渉に行ってもどうしてもOKをくれない企業がありました。そこで私はいろいろと調査した結果、決定権を持つ人の奥さんが大の人形好きで、私との交渉日がちょうど二人の結婚記念日だということがわかったのです。そこで私は交渉当日、あえて時間を長引かせました。というのも、アメリカ人は結婚記念日を大事にするので、相手は早く帰らなくてはならないはず。すると案の定、相手は時間を気にしてイライラし始めました。そこでさらに話を引き延ばし、ついにOKを引き出したのです。この話はそれだけで終わりません。私は日本から奥さんへのお土産として日本人形を持参していました。それを彼に渡すと、大喜び。おかげでその後の交渉もスムーズに進みました。あとでジョブズも「どうやったんだ」と驚いていましたね。リサーチの手間はかかっても、結果的に取れない合意を取れるのなら、調査時間はムダどころか、スピーディに合意を得るためにかけるべき時間ということになります。

酒巻久の経歴・略歴

酒巻久、さかまき・ひさし。日本の経営者。キヤノン電子社長。栃木県出身。芝浦工業大学工学部卒業後、キヤノンに入社。研究開発部門でVTR、コピー機、ファックス、ワープロ、PCなどの開発に携わり大きな実績を残す。その後、キヤノン電子社長に就任。経営改革でキヤノン電子の利益を5年で10倍にした経営者。主な著書に『椅子とパソコンをなくせば会社は伸びる!』『キヤノンの仕事術』『会社のアカスリで利益10倍! 本当は儲かる環境経営』『最新 情報漏洩防止マニュアル』『企業情報漏洩防止マニュアル』など。

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