田中優子(江戸文化研究者)の名言

田中優子(江戸文化研究者)のプロフィール

田中優子、たなか・ゆうこ。日本の江戸文化研究者、エッセイスト。「法政大学」総長。神奈川県出身。法政大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科修了、同博士課程単位取得満期退学。法政大学専任講師、助教授、教授などを経て総長を務めた。江戸に関する書籍を多数執筆。

田中優子(江戸文化研究者)の名言 一覧

私は総長ですが、何か困ったなとか、自分の能力が追い付きそうにないなと思ったら、すぐに周りの人に相談します。周りから能力のない人だなと評価されても構いません。それより大事なのは、総長の仕事を遂行することであって、偉く思われることではないです。


総長になって最初にやったのは、まず自分たちの個性をきちんとつかんで発信すること。本学の原点と方向性を見失わないように「法政大学憲章」を作りました。


自分で考えず命令に従うという性質は、企業の活力をなくすと思います。それは、国全体として非常に困った問題でしょう。ですから、思考力を育てるために、一つの大学ではなく社会全体の問題として小さい頃から自分で考え、決める力を育てなくてはいけません。


自分の意見を持って、それを発信して、みずから選び、決定し、行動していく。もちろん、その過程では、他者の自由も尊重しなくてはいけません。自由とはそうした「活動」を伴うものだと思うのです。


個人、特に新入社員などの若手が成果を出すには留意すべき点があって、それは決して「抱え込まない」ことです。「これで目標を達成できる」「いいところを見せられる」などと思って頑張るのはいいのですが、欲張ってしまうことがある。それで一人で抱え込んでしまって、結果的にまわりに迷惑をかけてしまうことが多々あります。


ある企業人にお会いした際、「自分で目標管理のできる人を育ててほしい」と言われました。目標管理は、自己管理にとどまりません。自分で自分の目標を掲げ、その目標の達成を目指して日々取り組んでいく。その際は独りよがりにならず、上司などに相談することも必要です。それが「目標管理のできる人」だと考えています。


男女関係なく、学生に接していて感じるのは、自信の有無です。企業の中には「とにかく成果を出してくれればいい」と考えるところもあるかもしれませんが、それでは不十分です。「個人の能力を伸ばしながら組織の成果を出す」ことが重要であって、そうした視点が企業にもよい評価をもたらすはずです。


他校の見習った方がいい点は参考にしますが、個性が違うから競争しても仕方ありません。学生はその個性の違いの中で、本学を選んでいます。だったら競争するのではなく、まず自分たちの個性をきちんとつかんで発信し、法政大学はこういう大学ですときちんと表現することが大事なんです。


女性は男性に比べて競争に執着しないところがあるのではないでしょうか。出世しなくていいという気持ちがあるんですよ。男性は出世競争に勝ち抜き、地位を得ることに一生懸命ですよね。私からすると、別に気にしなくてもいいのにと思うことが、プライドに引っかかってしまうようです。


他にできそうなことがないこともあり、大学3年生の時に江戸時代の研究をしようと決めた。それをひたすら追求していき、教授になり、法政大学の総長になったという次第です。いまだに競争心とは何なのか分かりません。


かつてのように、教師が一方的に講義し、教えたことを暗記しているかどうか試験するという教育の仕方はもう通用しません。学生一人ひとりの能力を生かす形でカリキュラムを編成し、それに沿った形で教育をして基本的自己肯定力を育てるべきなのです。


社会の先行きがあまりにも不透明ですから、今求められているのは、誰かの命令に従うことではなくて自分で考えることです。AI時代になると、思考力のない人間は、ますます仕事に就けなくなるでしょう。それでは、企業に入社できたとしても、真っ先にリストラの対象になりかねません。


子供は一人ひとりが違う特徴を持っています。大人になれば、さらに多様化した社会にさらされます。これからは外国で働いたり、外国人と一緒に日本で働いたりする可能性が高くなるでしょう。自分自身も多様性の中の一つの個性であることを、子供のうちに知っておかなければなりません。同じような考え方の人たちが集まって、何も言わなくても分かるよね、みたいな社会はなくなっていくでしょう。


企業はシェアを拡大しなければならないのかもしれませんが、大学は定員が決まっているのでシェアを拡大できません。だから一番のライバルといわれた明治大学とも連携を強化する協力協定を結びました。学生がそれぞれの大学で単位を取れるようにするなど、様々な方法で大学の質を高めるしかないのです。


親は子供との関わりの中で、どこまで保護すべきかをよく考える必要があります。保護してはいけないことの一つは、自分で物事を決めるということです。たとえば、食べるものから着るもの、学校の選択まで親が全部決めて押し付けることを繰り返していると、子供は自分で決められなくなります。それが一番の問題です。


今のように、仕事の内容がどんどん変化している時代は、誰にとっても、わからないことがあるのは当たり前です。わからないことはみずから学ぶことが必要な一方、人に相談して、解決することも大切です。ほかの人にも投げかけつつ仕事をすることが、仕事のスピードアップにもつながることを若い人は知ったほうがよいでしょうね。


相談することも、一つの能力です。日頃から上司や先輩とコミュニケーションを取って、人間関係を築いておく。そして、問題が起きそうな時には、速やかに相談する。これも大事な仕事の一つです。相談することは、プライドがあまりに高いと、なかなかできません。問題が起きても、自分でなんとかしようと考えて、結果、一人で抱え込んでしまって、にっちもさっちもいかなくなる。これは非常に悪いパターンです。


今、企業が求めているのは、自分で考え、主体的に動ける人です。若年であっても、主張すべきは主張し、上司に意見できる人です。意見したことについては、逆に反対されたり批判されたりすることもあるでしょう。そのような異見を受け入れる度量も必要です。今の企業はそうした器のある人を求めています。この人物像は、実は私たち法政大学が目指している学生像と一致するものなのです。


多様性のある社会では、その場で素早く判断する力が求められます。今自分がいる場所で、自分は社会に何を貢献できるかを瞬時に判断する知性が必要になります。ある人が就職していきなりアフリカに赴任することになれば、英語だけではなくフランス語も必要になるかもしれません。これまでにない事態に直面した時には、学校で学んだような既存の知識では間に合いません。どんな状況でも、自分に自信を持って、失敗を恐れず判断する力を育てることが必要なのです。


私は、昔から劣等感はあるのに競争心はありません。中高時代は勉強が嫌いでほとんどしませんでした。兄がすごく優等生で、勉強も音楽もできました。そんな兄に比べて私は劣等生でした。よく周囲からは比較されましたが、私は親にあれをやれ、これをやれ、とは言われませんでした。言っても仕方がないと思われていたのでしょう。そうした親の教育方針のおかげか、私は兄や他の人と自分を比べることをせず、進むべき道にも迷いがありませんでした。


本学の特任教授である尾木直樹先生と対談していると、「自己肯定力」が必要だという話によくなります。それはむやみに自分を肯定するという意味ではありません。自分には決められる、決めたことを自分で達成できるという自信のことです。


多くの企業はすでに「AIで代替できる能力しか持たない人は要らない」と明言しています。AIに代替できない能力とは何か、大学も考えていかなくてはいけません。ただ、今、明らかにいえるのは、AIを管理する能力は必要だということです。そうであるなら、文系の学生であっても、少なくともAIの基礎については知る必要があります。その上で、人間としての思考力、判断力、決断力が求められる。それは若手であっても同じです。決断したことについては、責任を負いますから、その責任に耐えられるだけの精神力も求められるでしょう。


経営者や上司は若手が聞きやすい雰囲気をつくる必要があるでしょう。目標だけ与えて、あとは放っておくのは、少なくとも今の時代には適しません。現代は大量生産・大量消費から、ソリューション事業にシフトしています。そうした時代には、モノを売るにしても、お客さんの相談に真摯に向き合いながら売る必要があるでしょう。顧客との対応は外に対するコミュニケーションですが、その姿勢は中、つまり職場にも求められます。職場の内外で、コミュニケーションを取りやすくする。これは企業が伸びていくためにも必要なことだと思います。


少子化が進む中、大学の財政基盤を整えることは必須。財政をしっかりさせるためにも、ブランディングは重要で、私が総長に就任してすぐにブランディング戦略会議を立ち上げました。そして、委員会を組織して、教職員によるワークショップを繰り返し行ないました。広告代理店に外注する方法もあるでしょうが、それでは中身の伴うものはできないと考えて、外部の方の力を借りつつ、自分たちでワークショップを重ねることにしたのです。


法政大学がまずもって守るべきは、法政が持つ「自主性」です。法政大学憲章では、それを「自由」と表現しています。ただ、この自由は「状態」ではなく、「活動」としての自由です。状態としての自由は、のんべんだらりとだらけていてもいい、どんなふうに過ごしてもいい、ととらえられがちです。そうではなく、自分の意見を持ち、決断し、行動していく。そうした「活動する自由」が大切だと考えています。自主性、あるいは自由というのは法政の伝統で、これは守り続けないといけない。


日本人は「観る」より「する」が好きなんだと思います。例えば、江戸時代に歌舞伎が流行すると、そのうち役者の物まねが流行り始めて、『鸚鵡石(おうむせき)』という物まねのための本が出版されます。また、小唄の前身の端唄というのは、長唄を短くして素人でもできるように工夫したものです。つまり「観る」だけでは満足できず「する」を創り出している。そういう面白さは、外国にもどんどん伝わっていますよね。アニメを中心としたコスプレやカラオケは世界に広がっている。東京は、そういうものを先導していく拠点になる可能性があると思います。


学校経営では、職員との協力体制を重視しています。1人で経営するのは無理ですから。各人が持っている能力に偏りがあるのは当然で、それを寄せ集めて何ができるのかというコーディネート能力が何よりも重要です。私はこのことを江戸文化から学びました。長い間、「連」を研究してきました。連とは、様々な能力を集めて何かを作り出すという動きです。一人の天才が現れて、何でもやってしまうということは、江戸時代にはありませんでした。マルチの能力を持った人はいろいろな連に所属しながら、その能力をいろいろなところで発揮していました。大事な役割を果たしていたのが、コーディネーター的な人なんです。そういう人は何か作品を残すことが少ないので、蔦屋重三郎といった一部の人を除いて、歴史に名前が残ることはほとんどありません。現代社会でも競争を勝ち抜くトップだけでなく、そうしたコーディネーターのようなトップが求められていくような気がします。


海外は徹底した競争社会で、自己表現が不可欠といわれますが、必ずしもそうでもない側面もあります。本学の卒業生で、ブルッキングス研究所という米国有数の研究所でシニア・ファイナンシャルマネージャーを務める根本亜紀さんという女性がいます。根本さんが競争に関してこのように話していました。「米国の職場はどうしても自己表現が必要です。だけれども相手の立場に立ってモノを考えて、相手を思いやりながらつなげていくことはもっと必要なことなのです。周りには競争するために、自己表現だけしている人が相当いますが、私の強みは周囲の話に耳を傾けることだと気が付きました。日本社会で育ってきた強みを米国の職場で生かしています」、と。


社会的自己肯定力とは、主に競争に勝つことで得られるものです。そのため、初めは勝てても競争が別の次元に移ると、勝てなくなる場合があります。AI時代への移行などは、その典型でしょう。そのため、社会的自己肯定力は相対的に揺らぎやすいもので、それだけでは不十分です。むしろ重要なのは、基本的自己肯定力です。それは、自分にはできる、という自信のことですから、小さな頃から育てられます。また、小さな頃に育て損なったとしても、大きくなってからも身に付けられます。そのためにも、我々のような大学も、そうした力を育むことに力を入れなくてはなりません。


田中優子(江戸文化研究者)の経歴・略歴

田中優子、たなか・ゆうこ。日本の江戸文化研究者、エッセイスト。「法政大学」総長。神奈川県出身。法政大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科修了、同博士課程単位取得満期退学。法政大学専任講師、助教授、教授などを経て総長を務めた。江戸に関する書籍を多数執筆。

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