榎本博明の名言

榎本博明のプロフィール

榎本博明、えのもと・ひろあき。日本の心理学博士。東京出身。東京大学教育学部教育心理学科卒業後、東芝に入社。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中途退学。川村短期大学講師、大阪大学大学院助教授、名城大学大学院教授などを務めたのち、MP人間学研究所代表に就任。心理学をベースにした企業研修や講演を行った。

榎本博明の名言 一覧

関係性を生きる日本人は、「相手の期待に応えたい」という気持ちがとくに強いので、期待をすれば一生懸命に頑張って成果を出そうとするでしょう。逆に、上司が「こいつにはできるはずがない」という負の期待を言動で示すと、部下はそれに応えて仕事の手を抜くようになります。


部下に裁量ある仕事を任せることもモチベーションの向上につながります。なぜなら、人間には「自律の欲求」があるからです。これは、「自分で決めて、行動したい」という欲求のこと。よって、部下が自分で考え、工夫しながらできる仕事を与えれば、意欲的に取り組むことができます。


不確かなことにイライラするのは時間のムダ。生産性を求めるのなら、主観的な部分は切り捨てましょう。事実にだけ反応するクセをつけましょう。


打たれ弱い人は、出来事の捉え方を変える必要がある。感情は脇に置き、客観的に次を考えることが大切。


部下の目には、自分を大きく見せようとする上司の方が滑稽に映るものです。


人間は自分の話に耳を傾けてくれる相手に心を開きます。


達成感や充実感などの内的報酬を得る唯一の方法とは、目の前の仕事に全力で取り組むことです。


仕事を意味あるものにするには、仕事が自分にとってどんな意味を持つのかというストーリーを描くことです。


上司が喜ぶことしか言わない取り巻きを置いて、組織の論理に流されやすい人間だけでやっていける時代は終わった。


嫌われない人とは、「相手のコンプレックスを刺激しない人」。


時代背景を踏まえ、相手に引きずられて感情的にならず、あくまで冷静に対応する力を身につけてください。


「順調に進んでる?」「何か問題はない?」といった声かけは、部下が自分の気持ちを話すきっかけにもなります。困っていることや悩みを聞いてもらえば、気分がスッキリしてカタルシス効果を得られると同時に、聞き手である上司との心理的距離が縮まって、上司の指示に積極的に従おうという気持ちが強まります。これを「自己開示の親密化効果」と言います。


相手に反発心を抱かせたり、過剰に落ち込ませないためには、クッションとなる枕詞を使うのも効果的。たとえば、ミスをした部下に対して、「慣れないうちは誰でも同じミスをするんだよね」「僕も若い頃はそうだったよ」などと前置きをした後で、注意すべきことをハッキリ指摘する。相手の気持ちに配慮する枕詞を置くことで、そのあとに続く言葉を相手が受け止めやすくなります。


マニュアルどおりの定型的な仕事しか与えなかったり、上司が「俺の言うとおりにやればいい」と他のやり方を一切認めない態度でいると、部下はやらされ感しか得られず、やる気を大きく低下させる。


失敗を恐れないためには、「減点法」をやめて、「加点法」の思考に切り替えるといいでしょう。イチロー選手は、打率にはこだわらず、ヒット数にこだわることを明言していますが、それは失敗してもヒット数が減ることはないからです。打率は失敗すれば下がりますが、ヒット数なら失敗してもプラスマイナスはゼロで、成功するたびに一本ずつ増えていきます。だからイチロー選手は「もし失敗したら」と気持ちが萎縮することなく、打席で伸び伸びとチャレンジができる。このように、「失敗は0、成功はプラス1」という加点法の思考を習慣づければ、「0と1なら、やってみるしかない」と考えるようになるはずです。


完璧な人間などいませんから、どんな人でも何らかの劣等感を持っています。そこで弱みは弱みとして受け入れ、「自分はこういう強みがあるから、これで弱みをカバーすればいい」と考えられる人は、それ以上劣等感に悩まされることはありません。


上司が部下にアドバイスする際、いきなり問題点を指摘すると、劣等コンプレックスを持つ人は自分を守ろうとして反撃してきます。それでは、せっかくの助言も相手の心に届きません。「私も昔は同じような失敗をしたんだ」「慣れないうちは、みんなよくやってしまうんだけど」などと前置きをしてから、「こうすると、上手くいくんじゃないかな」と話してみてください。


一方的な意見を押し付けたり、威圧的な話し方をしたりする上司は、実は自分に自信がないのです。「部下に軽んじられるのでは」という不安が強く、自分を大きく見せなくてはと思うあまり、虚勢を張って尊大な話し方をしてしまうのです。


上司であっても部下の前で完璧である必要はありません。自分の弱みを認めたうえで、自分なりの上司像を築いていけばいいのです。それは部下も同様です。自分の弱みを受け入れることで、上司のアドバイスを素直に吸収して自分を成長させることができます。


年長者が年下の人に過去の経験を語るときも、ひとつ間違うと単なる自慢話になりがちです。聞く側が押しつけがましいと感じるのは、「自分一人の力でここまでやってきた」と言わんばかりの話し方をされた場合です。それではそこから教訓を学ぼうという気にはなれません。ですから経験談を話す際は、「自分が成功したのは運がよかったからで、歯車がちょっと狂っていたらどうなっていたかわからない」という謙虚さを示すことが大切です。


「君はどう思う?」と問いかけ、部下の意見を聞きだしながら、対話形式でアドバイスをするのも有効です。一方的に「こうしろ」と命令するのではなく、ヒントを与えて結論は部下が自分で出すように導くのです。自分の言葉で語った内容は、記憶にしっかり定着しますし、深く理解できます。


自信があれば人の意見に耳を傾けるだけの心の余裕が生まれますが、自信がないと見下されたという被害者意識が増幅し、逆ギレして相手に攻撃的な言葉をぶつけることさえあります。


人が「上から目線」を意識するのは、「相手が自分を見下している」と感じたときです。見下されていると感じるのは、自分に自信がないからです。だから常に、「相手と自分のどちらが上か」を比較し、「下に見られた」と思ったり、「能力を見限られた」と思ってしまう。そして、相手が上司であっても、「自分より優位に立ってものを言うのが許せない」と考えるのです。


私たちが自分の意思でコントロールできるのは「いま」だけなのですから、いま目の前の仕事に集中する。そうやって「いま」を積み重ねれば、10年後にも「いい仕事をしたな」「いい10年だったな」と満足できるでしょう。その繰り返しが、結果的に自分らしい仕事や自分らしい人生をつくるのです。


未来に何が起こるかなんて、誰にもわかりません。わからないからワクワクするし、予想外の出来事に直面して、いままで見えなかった風景が見えるようになる。それが成長なのです。


自分らしさとは求めるものではなく、あとから振り返ったときに初めて気づくものです。そう考えれば、現代人の多くがとらわれている「自分らしく生きなければ」という呪縛からも解放されて、もっと生きやすくなるのではないでしょうか。


自分がやっていることに意味が見いだせないほど虚しいことはありません。多くのビジネスパーソンが抱えるモヤモヤは、この無意味感から生まれています。このことから目を背けて仕事を続ければ、何年かたったときにきっと後悔することになるでしょう。それは損以外の何物でもありません。


仕事にやりがいを求めるならば、自分に合った「仕事探し」ではなく、目の前の仕事を楽しくする「仕事づくり」をすることが近道だと心得ましょう。


どんな仕事でも集中して懸命に取り組めば、できなかったことができるようになったり、わからなかったことがわかるようになったりする瞬間が必ず訪れます。そして、「もっと上手くなりたい」「もっと勉強したい」と好奇心や向上心が湧いて、仕事が楽しくなっていくのです。


現在はお金や地位など外発的報酬による動機づけが難しくなっています。それでも昇給や昇進にこだわると、いくら働いても報われないとモチベーションは下がります。その結果、成果があがらず、ますますお金や地位から遠ざかり、さらに意欲が低下するという悪循環に陥ってしまいます。


自分のストーリーを持つと仕事に意味が生まれ、その意味がやりがいをもたらします。たとえば紅茶販売店で働く男性は、テレビで偶然紅茶の知識を語る店員を観て、「自分もお客様に土産話ができるようになろう」と決めたそうです。そこで紅茶の歴史や産地などを勉強してそれでお客に話すと、相手も感心して聞いてくれる。このことで単調に感じていた販売の仕事が一気に楽しくなり、知識をもっと深めようという意欲もわいてきて毎日が充実してきたそうです。


権威を振りかざすタイプの上司には、真正面から攻撃しても逆効果です。輪をかけて尊大になります。そこで、「こっちが育ててあげる」ぐらいの目線で、対応しましょう。「弱い犬ほどよくほえる。不安で仕方がないんだ」と考え、上司の言葉にいちいち逆らわないで受け流すのです。


上司の自慢話は忍耐力を鍛える修業と思って聞いてあげる。学ぼうという姿勢で聞いてみると、役立つ経験談が意外にあるかもしれません。そんな素直に聞いている部下を、上司は気に入り、困った時にいろいろと助けてくれるケースもあるでしょう。


自分もイライラしないためには、感情を沈静化させる作用がある「ポジティブセルフトーク」が有効です。例えば、上司の理不尽な言葉に、「もう我慢できない!」とカッとなったら、「大したことじゃない」「大丈夫、落ち着こう」などと自分に言い聞かせる癖をつけます。暴言を比較的冷静に受け止められ、相手への嫌悪感も軽減します。


お勧めしたいのが、「読み替え力」を身につけることです。胸にグサッと刺さる上司の乱暴な言葉を、自分の都合のいいように翻訳しましょう。例えば、「そんなこともできないのか」→「それができるようになったら一人前に近づく」などと解釈することで、受けるダメージを軽減できます。


他人の性格を変えるのは無理です。ましてや、自分のことを評価する上司だからこそ、部下は意見しにくい。であれば、部下はイライラによるダメージを減らすようにするのが得策です。


自分の内側からわいてくるものをじっくり醸成し、発酵させることができる内向型は、現状の問題を提起し、本当の議論ができて、反対意見を述べられる。そういう人が、これからの時代には必要になってくる。


社会が内向型の人を排除しようとするのは大きな損失。内向型には、外向型にはない強みがある。それはいまの社会が抱える様々な問題を解決し、社会に貢献をもたらす可能性を秘めている。


「失敗したらどうしよう」という不安から、仕事にすぐ取りかかれない人も多いようです。日本人は遺伝子の点からみても、不安傾向が強いという研究結果があります。米国人なら「成功したらこんなにいいことがある」と考える場面でも、日本人はネガティブに考えがち。だから、最低限の仕事だけこなし、失敗をせずに無難にやり過ごそうと考えるのです。しかし、「やって失敗する」と「やらないから失敗もしない」を比べれば、前者のほうがよいことは明らかです。失敗すれば、少なくとも「このやり方は間違っていた」とわかります。目の前にある選択肢がひとつ減ったのだから、次に成功する確率は、何もやらない人よりも高くなるはずです。つまり、失敗したことで経験値が増え、やらない人より先に成功へ近づくことができるのです。


「そろそろ取りかかったほうがいい」「今日はここまで進めなさい」と上司がすべて指示すると、部下は自律的に時間を管理する力が身につきません。一週間などとスパンを決め、そのあいだは本人に仕事の進め方を任せ、上司が進捗の確認や指示出しをするのは週に一度の打ち合わせだけにする、といったやり方が適切でしょう。


時間的展望がない人は、いましかみえないので、「今日やらなくても何とかなった」と安心してしまう。締め切りの期日が迫ると、ようやく必死になって仕事をこなしますが、何とか納期に間に合うと、そこでまた安心して頭のなかが初期化されてしまう。だから翌月も同じように、ぎりぎりまでやらないという状況を繰り返してしまうのです。


どんな人でも、苦手な仕事や嫌いな仕事が回ってきたら、なかなかやる気になれないものです。しかし、仕事をすぐやるタイプの人は、そうした仕事も先送りしません。なぜなら、「嫌なことを後回しにして、好きなことをやったとしても、後回しにした仕事が気になって心から楽しめない。だったら、嫌なことは先に済ませてしまおう」という思考パターンが身についているからです。これは、頭のなかに時間的展望があるから可能となる思考です。要するに、その瞬間だけで判断するのではなく、長いスパンで物事を考えられるので、そのなかで優先順位をつけて、いまやるべきことをすぐに実行できる。


目標は、ごくささやかなもので構いません。むしろ、大きすぎる目標を立てると、それを達成できない自分に落ち込んで、またやる気をなくしてしまうので、少し努力すればクリアできるくらいの目標でいい。小さな目標を達成し、それを日々継続していくことで、少しずつ達成できるレベルが上がり、それとともに自信もつきます。自信がだんだんと大きくなれば、新しいことにチャレンジしようという意欲もますます高まって、さらにやる気が湧くというよいサイクルを持続することができます。


会社から与えられる目標やノルマはあると思いますが、他人から基準を与えられて「これを達成しろ」といわれると、どうしても「やらされ感」が生まれます。このやらされ感こそ、やる気を失わせる大きな原因なのです。大事なのは、「能動感」をもって仕事をすること。そのためには、自分で目標設定する習慣をつける必要があります。


「やる気」を高めるために必要なのは、「意味づけ」をすることです。「この仕事が自分にとってどんな意味をもつのか」がわかれば、目の前の仕事を楽しむことができるし、自分から進んでやってやろうという気持ちになるのです。


仕事を滞りなく進められる人は、どんな仕事でも、「もっと早く」「もっと多く」「もっと正確に」など、必ず目標を設定する仕組みが自然と頭のなかにできあがっているのです。大事なことは、その仕組みを自分でつくれること。遊びのゲームは、「この点数をクリアすれば、次のステージに進める」といった仕組みを他人が設計してくれるので、自分は受け身でいればいいのですが、仕事の場では自分で仕組みを設計しなくてはいけません。


大人でも電車のなかでゲームに夢中になっている姿をよくみかけますが、あれだけやる気になれるのは、「できなかったことができるようになる」という熟達感があるからです。前回よりも高い点数が出せた、あるいは新しいソフトをクリアできた、といった達成感が喜びとなり、また次のゲームにチャレンジしようと考えるわけです。仕事を滞りなく進められる人は、このゲーム感覚を仕事にも取り入れています。普通の人がつまらないと感じるような単純な作業でも、自分なりの目標を設定して、「前はこの入力作業に5分かかっていたが、今日は3分でやろう」と考え、それを達成することで喜びを感じます。


与えられた仕事にやりがいを感じられなければ、なかなか仕事に手をつける気が起きないもの。そんなときは、自分で意味を作り出しましょう。最初は些細な意味づけでかまいません。たとえば、タスクを処理していくのをゲームとして捉える。「この作業を30分以内で終わらせればゲームクリア」などと自分でルールを決めてトライすると楽しさが生まれます。


出来事への反応には、感情反応と認知反応の2つがあります。前者はマイナスの出来事に対して「もうだめだ」「なんでこんなことに」などと感情的に反応すること。後者は「どこがまずかったのか」「今できることは何か」などと考える分析的な反応。どちらがモチベーションを維持しやすいかは言うまでもないでしょう。


比べる対象は、他人ではなく、過去の自分にしましょう。去年できなかったことが今年はできる、といった自分自身の変化や進歩に目を向けるのです。それが、すなわち「成長できた」という実感です。その喜びを感じることで意欲が湧いてくるのです。


自己効力感とは、「自分はできる」という自信。自己効力感があればためらいなく仕事に着手できますが、「無理かも……」と思えば手が止まってしまいます。自己効力感を高めるうえでも、小さな成功体験を積み重ねることが有効。もうひとつ、他人と自分を比較しないことも重要です。他人を意識して劣等感が刺激されると、自己効力感が損なわれる原因になります。


最近、海外の研究で注目されているのが「自動動機理論」と呼ばれる理論です。普段、見えているものが無意識に作用し、モチベーションの喚起につながることが実験で証明されているのです。たとえば、「根性」という文字が書かれたものをデスクの上に置いておけば、本当に根性がついてくる、というわけです。


日本の会社組織では、体面を保つことが何より重視されます。これは、組織の中で敗者をつくらないための戦略とも考えられます。正しいことを言ったり、間違ったことに反論するにしても、言い方を考えるのが、美徳とされているのです。


若い世代は「親しみやすい人」には心を開きやすいので、日頃から気遣ってくれたり、自分の話をきちんと聞いてくれる上司なら尊敬し、指示にも素直に従うようになります。


従来であれば、上司が部下の昇給や昇格を左右できる「報酬勢力」や、「上司が部下に命令するのは正当である」と思わせる「正当勢力」があれば部下を動かせましたが、今の時代はそれに加えて、「あの人のようになりたい」と思わせる「準拠勢力」や、「あの人は専門能力やスキルが高い」と思わせる「専門勢力」も必要です。


部下の言ったことに対し、上司が「それは違うんじゃないか」とアドバイスするのはごく普通のことです。ところが今の若い世代には、これを「自分の能力や人格を否定された」と感じる人が少なくありません。自分に自信がなく、少し注意されただけで被害者意識を持ち、「上司から見下された」と反発したり、「自分はダメなのだ」と落ち込んだりする。そんな「傷つきやすい人」が増えています。


いつも偉そうで、すぐキレる上司の場合、心理学的に見ると、彼らが偉そうにしているのは常に心のどこかに不安を抱えているから。周りから凄いと思われたい承認欲求が強いけれど、実際には自らが望むような評価が得られていない。偉く見せることで自分の気持ちを保っているのです。これまでの成長プロセスのなかで身につけた姿勢ですから、彼らの生き方は今さら変えられません。


仕事の基本である「報連相(報告・連絡・相談)」は上司の心のケアという意味もあるのです。経験を重ね、実力も身についた人ほど、上司に甘えず、難しい仕事でも自分で判断してしまいがち。しかし、上司からすると自分が尊重されていないと感じる原因となります。細かに「報連相」をし、「私はあなたを信頼しています」と上司に示すことが大切です。


上司がいつもその場しのぎで指示を出したり、説明不足で指示の意味がよくわからないと部下が感じていると、「もっと急いでくれ」「今月は必ず目標売上げを達成するぞ」などと叱咤激励しても、部下は「上司が感情的になっているだけだ」と見なして反発し、モチベーションを低下させてしまう。よってリーダーは、部下たちを目標や課題の達成へ向けて動かすためにも、普段から計画的で冷静な指示出しを心がけることが必要です。


組織のリーダーであれば、チームを目標に向かって引っ張っていくP機能(目標達成機能)を発揮できることは大前提です。しかし、それだけで部下のモチベーションを高め、チーム全体のパフォーマンスを上げるには限界があります。「間柄の文化」である日本の職場では、チーム内の人間同士の気持ちをつなげるM機能(集団維持機能)を発揮することが不可欠なのです。


今の若い世代は「会社や職場への愛着が希薄だ」と言われますが、新入社員を対象としたある意識調査で「職場に求めるものは何か」と聞いたところ、最も多い回答は「良好な人間関係」でした。日本人が「間柄の文化」を生きている以上、部下やメンバーの世代に係わらず、リーダーは人間関係という要因を重視しながら組織をマネジメントする必要があるということです。


日本のような「間柄の文化」では、人間関係は強力な動機づけ要因になります。日米を比較した心理学の調査研究によると、日本人が最もモチベーションを高めるのは、「誰かのために」という動機づけがなされたときであるという結果が出ています。つまり、「自分にとって大切な人を喜ばせたい」とか「悲しませたくない」といった気持ちが、頑張る理由になるということです。


客の要望に応じてマニュアルはどんどん過剰になっていき、その結果、店員は心から客をもてなす余裕を失ってしまいました。するとサービスの質は下がる。まさに本末転倒です。人の心は弱い。客は評価を下す立場になると自己愛がくすぐられ、店側に無理難題を突き付けるようになります。「お互いさま」の時代に戻さなければ、サービスの現場がもたなくなります。


若い世代の動機づけ要因になるのが「成長意欲」です。この成長意欲に応える手段としても、声かけは効果的です。人が自分の成長を実感するのは、以前はできなかったことができるようになったり、他人から認められたりしたときです。ですから、上司が「この資料、前回よりわかりやすいね」「先輩に相談しなくても一人でできたじゃないか」などといった具体的な成長を言葉で伝えれば、部下も「自分はこの職場で成長できている」という実感が得られます。


組織心理学では、リーダーは二つの機能を発揮することが求められると考えます。一つは、「P機能(目標達成機能)」で、集団における目標達成や課題解決を促すリーダー行動を指します。もう一つは「M機能(集団維持機能)」で、チームの維持やまとまりを促すリーダー行動を指します。様々な企業の中間管理職を対象に調査した結果、P機能とM機能の両方を強く発揮する「PM型リーダー」が最も職場を活性化させ、生産性を高めると実証されています。


日米の比較調査によると、米国では、何かを成し遂げたいという「達成欲求」が高い人ほど、他人と仲良くしたいという「親和欲求」は低いという結果が出ています。つまり他人を出し抜いたり、蹴落としたりできる人が、高いモチベーションで目標を達成できるわけです。ところが日本では、「親和欲求」が高い人ほど、「達成欲求」も高いという結果が出ました。周囲と親しくしたいと思う人ほど、高いモチベーションで仕事に取り組める。これが「間柄の文化」を生きる日本人の心理的特性です。


欧米が「自己中心の文化」であるのに対し、日本は「間柄の文化」です。「自己中心の文化」では、個人が自分の考えを主張し、思うままに振る舞うことが良しとされ、他人から影響を受けるのは未熟な人間と見なされます。それに対し「間柄の文化」では、相手の気持ちや立場に配慮した言動をとるべきだとされ、自己主張ばかりして思いどおりに振る舞う人間こそが身勝手で未熟な人間と評価されます。つまり、欧米文化と日本文化では、自己形成の方向性が正反対ということです。よってモチベーションの源泉も、日本人と欧米人ではまったく異なります。


日本で紹介されるリーダーシップ論のほとんどは、欧米の理論や学説をそのまま持ち込んでいます。しかし、それを日本の企業や組織に当てはめようとすると大抵は失敗します。なぜなら、日本と欧米では歴然たる文化の違いがあるからです。リーダーシップを高めたいなら、日本人の心理構造や動機づけ要因を知ることが非常に有効です。中間管理職世代の方たちは、ぜひ心理的な要因も考慮しながら、自分のチームに合ったリーダーシップのスタイルを見つけてください。


責任ある仕事や大きな仕事を任せることも、相手のモチベーションを高めて成長を促進します。教育心理学では、「人は期待されたとおりの成果を出す」とする「ピグマリオン効果」がよく知られています。これは心理学者ローゼンタールが提唱したもので、彼が小学校で行った実験により、「もともとの知能にかかわらず、教師が期待をかけた生徒はそうでない生徒より大きく成績が向上した」という結果が得られたことに基づいています。これを職場に応用し、上司が部下に責任ある仕事を与えて、「君には期待しているよ」と声かけすれば、相手はそれに応えようとします。


有効なのが部下やチームメンバーへの声かけです。人間は誰もが、「ポジティブ・イリュージョン」を抱いています。これは、自分の能力や業績、性格などを、実際より優秀と評価する認知的な歪みのことです。つまり人間には、自分を過大評価する心理的傾向があるということ。だから職場では、多くの部下が人事評価に不満を持ちます。仮に上司が部下の能力や業績を正当に評価したとしても、本人は実際以上に「自分は優秀だ」と思い込んでいますから、「上司が自分をちゃんと評価してくれない」と不満に思うわけです。そこで重要になるのが、声かけです。上司が部下に「調子はどう?」「頑張ってるね」などと声をかけることで、部下は「自分を気にかけてくれている」と感じて不満は和らぎ、気持ちも前向きになって、モチベーションが高まります。


顧客満足度は日本の文化にそぐわない。米国発の指標を無批判に輸入するのは「百害あって一利なし」です。欧米社会が自分を中心に据えて行動する「自己中心の文化」なのに対し、日本は相手との関係性を重視しながら行動する「間柄の文化」なんです。日本では従来、客と店員が対等な立場で互いを慮ってきました。ところが顧客満足度という考え方を輸入したことで、この関係が崩れています。


話を聞くことは、相手の存在を認めて尊重しているということ。部下も「自分のことを気にかけてくれている」と信頼を寄せるだろう。それらの時間を使って、自分の価値観を部下と共有することも大切だ。大義や志の共有なく仕事を進めようとすると、部下からは上司が自分の欲のために動いているように見えてしまう。改革の根底には、どのような価値観があるのか。共感を得られれば、部下は手足のように動いてくれる。


忖度しすぎる人は相手がそこまで望んではいないことまで深読みして勝手な判断でやってしまいます。「手柄を立てて認められたい」という承認欲求が強かったり、出世欲の強い戦略的な人だったりするからです。「忖度」とは相手のことを思いやる気持ちから生まれるものですが、忖度しすぎる人の思考は、「上司のために自分が一肌脱いだ。そんな自分は評価されるだろう」と、自分中心の考え方に陥っているのです。


注意したいのは、部下への仕事の与え方や任せ方などは、チームの性質によって変える必要があるということです。心理学者ハーシーとブランチャードによる「リーダーシップのライフサイクル理論」では、集団の成熟度によって有効なリーダーシップのスタイルは異なるとしています。新しく立ち上げたばかりの組織や、新人が多くて個人の役割がまだはっきりしない組織などは、集団の成熟度が低いので、上司が部下に細かく具体的な指示をする「教示的リーダーシップ」が有効です。しかしメンバーが仕事に慣れ、集団の成熟度が上がってきたら、相手の気持ちに配慮して「君はどう思う?」と意見を聞きながら進めるといった「説得的リーダーシップ」が有効になります。さらに集団が成熟したら、リーダーは指示的な行動を減らし、メンバーのモチベーションを高めることに注力する「参加型リーダーシップ」へ移行し、成熟が最高度に達したら、メンバーの自主性や自律性を尊重し、多くの部分を部下の裁量に任せる「委譲的リーダーシップ」を目指すのが有効です。このように、リーダーシップのスタイルに唯一の正解があるわけではなく、集団の性格や個々のメンバーの仕事力を見ながら変えていくことが必要です。


榎本博明の経歴・略歴

榎本博明、えのもと・ひろあき。日本の心理学博士。東京出身。東京大学教育学部教育心理学科卒業後、東芝に入社。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中途退学。川村短期大学講師、大阪大学大学院助教授、名城大学大学院教授などを務めたのち、MP人間学研究所代表に就任。心理学をベースにした企業研修や講演を行った。

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