大西洋の名言

大西洋のプロフィール

大西洋、おおにし・ひろし。日本の経営者。伊勢丹社長。東京出身。慶應義塾大学商学部卒業後、伊勢丹に入社。営業本部MD統括部紳士服・洋品営業部商品担当長兼支店担当長・洋品営業部長・紳士第一営業部長、執行役員経営企画部総合企画担当長、執行役員営業本部立川店長兼立川店営業統括部長、常務執行役員、三越常務執行役員百貨店事業本部MD統括部長、などを経て伊勢丹の社長に就任。

大西洋の名言 一覧

よいコミュニケーションがないところでは、よい職場も、よい接客もできない。

今までいた環境と異なれば異なるほど、吸収できることは多い。

企業が成長するには多様な人材が必要。変化の激しい環境で生き残るには、異なる価値観を持つ人材がたくさんいた方が組織は強くなる。

お客様と直接コミュニケーションを重ねる販売員の情報は、それぞれの店にとって最大の武器となる。

ブランドの強みを知ることが改革の一歩。

人材と現場力が財産。最大の課題は、社員とお取組先すべてが、おもてなしの質を高めていくこと。それはとりもなおさず「現場力」であり、その現場力をつくるのは「人材」。

スタイリスト(販売スタッフ)のモチベーションが少し上がるだけで売上も大きく上がる。

こだわりを持つお客様は絶対にいる。

百貨店が低迷してきた原因の1つは同質化。同質化を崩していかない限り百貨店の再生はおぼつかない。

大切なのは今、我々が持つ強みをベースに、お客様に対して今までやっていないことをやることにある。それも外部に委ねず、自分たちの力で。

百貨店からお客様が離れていったのであれば、我々が変わらなければならない。よりお客様に近づく努力をしなければならない。

コアコンピタンスを軸に事業を広げれば、その内容がブレることはないでしょう。ブランド価値を毀損する懸念も生まれません。

百貨店を伸ばすためには、利益の源泉である売り場の最前線で働く人を大切にして、接客力を強化しなくてはなりません。

ずっと同じ環境にいれば、その努力が100を超えることはあまりありません。けれど環境が変われば、人間はそれに順応しようと120の努力をする。異なる環境が人を育てる。

変化の激しい時代に対応し、常にそのあり方を見直し、事業の幅を広げて変わっていかなくてはならない。

人手不足の中、優秀な人材を集めるには、企業もそれなりの体制を整えなければなりません。

最高のおもてなしを実現するには、販売員がしっかりと休める環境を整えなくてはならない。

小売業の要は売り場に立つ販売員にあります。人が大切と言うなら、実績に応じる仕組みを一層、充実させなくてはなりません。

仕組みさえ導入すればいいかというと違います。やはり要は人にあります。

あらゆる産業で生き残っている企業を見ると、昔の業容から大きく姿を変えています。

本当の意味で社内の壁を壊すには、現場の交流が欠かせない。現場の社員が一緒に働くことが、統合の第一歩。

現場力を上げる一番の近道はスタイリスト(販売員)のモチベーションをアップさせること。そのために取り組んできたのが店舗の営業時間の短縮です。

私は普段何もなければ、毎週水曜日と土曜日は必ず店頭に立つようにしています。

新しい事業は、担当者が納得して本気にならなければ成功しません。

何が正しくて、何が間違っているかというのは、分からないことでもありますが、変化が激しい時代において経営者として、5年、10年といった長期的な視点で、どうあるべきかと考えてやっていました。

リーマンショックは金融不安だったため、いつかはよくなると思えた。今の消費低迷は消費者の嗜好が変わったことが大きく、根が深い。

お金があっても買うわけではない。いまは富裕層でさえお金を使っていない。魅力があるものを出す企業努力をもっとしなければ消費は動かない。

私が初めて配属された売り場の上司に学んだのは、百貨店ではどんな役職に就こうと、どんな理屈を言おうと、売上げを立てられない人間の言葉には説得力がないということでした。

新人の時に「小売業はお客様がいなければ成り立たないのだから、お客様との接点で仕事をしている人間が一番偉いのだ」という考え方を叩き込まれました。

やはり、何もしなければお客様にご来店いただく回数は減っていく。お客様との接点をどれだけ持てるか。

既存のブランドを今までのように展開分類をしていたら潮流に乗り遅れる。

百貨店というのは、生活必需品を売るところではありません。豊かな気持ちにさせてくれる「モノ」や「コト」を売るのが百貨店。

デフレだから価格を下げれば売れるだろうというのは誤りで、大切なのはデフレであろうとなかろうと、価格に対する価値の比率が大きい商品を提供することなのです。

いまのお客様は、デフレマインドを持っているというより、商品を見る目が非常に肥えているのだと思います。では、お客様が商品の何を見ておられるのかといえば、決して価格だけを見ているのではなく「価格と価値のバランス」を見ている。

小売業の原点は、お客様にご満足いただける商売ができるかであり、基本は顧客創造だ。

クリアランスセールは、一部のサイズがなくなったり、季節外れになった時に、申し訳ないので3割お引きするとの意味があったが、いまはクリアランス自体が目的になっている。だったら、最初から上代(売値)設定を3割安くするのがお客様に対して正直な姿勢だ。

販売員をコストと見るか、財産と見るか。百貨店は売上が悪くなってコスト削減となると人件費を減らしてきました。当然、おもてなしの質はどんどん下がります。それではダメなんです。

百貨店が駄目になっているという意識がみなさんあまりにも希薄です。もう危機的な状態なんですよ。かつては業界全体で8兆~9兆円あった市場規模が、今後は5兆円を切ると全日本百貨店協会会長が言うぐらいですから。それだけ厳しいなら、いまの構造を変えなきゃいけない。クリアランス(バーゲン)の後ろ倒しはそのワン・オブ・ゼム。百貨店の商売の在り方そのものを変えようとしているんです。

お客様のトータルのライフスタイルに、少しでも小売業としてかかわっていくことが今後は重要です。百貨店として新しい店を出せるのかと言うと、新規出店は考えにくい。その中でお客様との新しい接点をつくるには、自分たちの強みを抜き出して新しいチャンネルに出ていくべきだと判断しました。

正直に申し上げて、いまほかの百貨店を見に行きたいと思いません。けれどイオンさんやコンビニエンスストアの動きには注目しています。新しいことをされていて、店を訪れると常に変化がある。

百貨店は小売業の王様だと言われていた時代が何十年も前にありました。当時の百貨店には何でも揃い、ちゃんとした接客があり、価値ある商品が並んでいると認識されていました。もう一度そこを目指せば、百貨店が必要とされる時代は必ず訪れると思っています。

私は決して他社さんのやり方がおかしいとは思いません。お客様が望めば、テナント貸しで商売をされるのもひとつの方向だと思います。ただ我々は、もう一度自分たちの目でものを見て、お客様に価値のある商品を提案するということをやり切りたい。これこそが、百貨店として生き残っていく道だと思っています。

世の中がこれだけ変化しているのに、我々百貨店は売上の仕組も変えられない。売上が悪くなって利益が出ないので、コストを削ることばかり続けてきました。その悪循環がいまの結果を生んだのです。百貨店離れの原因は結局、お客様や百貨店で売っている人をないがしろにしてきたからではないでしょうか。

私も含めて、百貨店業界はこれまで、あまりにも自分たちのリスクを取らずに来ました。自分たちでリスクを背負わず、取引先のアパレルメーカーが在庫リスクを負ってきた。それを続けてきたがために百貨店同士が同質化してしまいました。

伊勢丹新宿本店改装の目玉はいろいろありますが、まずは環境と空間づくりです。モノを売るだけでなく、お越しいただいたときにワクワクする、何か楽しいことがあるんじゃないかと思える店にしたい。

我々も営業時間を短くして、定休日を増やす試みを進めているところです。今年の8月は営業時間を詰めて、定休日を全店で2日設けました。今年からはもっと本格的にやりたいと思っています。この狙いは、我々の独自性であるおもてなしを追求することです。お客様と接点のある販売員が最高のコンディションでお客様に接すること。これが百貨店の大きな存在意義ですから、そういう意味でも休むときには休む必要があります。

私は百貨店という業態がなくなった方がいいと思っています。百貨店と他の小売業の壁は、今後一層なくなるでしょう。百貨店業界はもう、どうやってもひとまとめにくくれなくなっていますから。百貨店は何かといったとき、横串が通るものはもうないんです。各社とも経営方針があり、それぞれのビジョンを持っていらっしゃる。どこが悪いとか良いとかは思いません。ただ各社の方向性はバラバラになっています。

従来のやり方が通用しなくなっているいまの時代だからこそ、自分にはない情報や考え方を積極的に受け入れていくべきです。そうして自ら「変化」を求めていくことが、仕事の楽しさにつながるのではないでしょうか。

自分と異なる人たちに会うことは、ストレス対処の点でも有効なのです。仕事のストレスというのは、往々にして自分の視野の狭さが原因になっていることが多いもの。自分や自分の周りの人にはない考え方を知れば、いま抱えている悩みや葛藤についても、異なった見方ができるようになります。

入社7年目のときに新規のプロジェクトチームに配属されたのですが、そのときの上司が毎晩のように飲み歩く人でした。でも、ただお酒を飲むのではなく、デザイナーや芸術家、小説家、ときには政治家など、本当にたくさんの人に会っていた。私はカバン持ちでついて回っていたのですが、初めは遅くまでつき合わされて、正直しんどかった。しかし、普段会わないような人たちの話を聞くうちに、自分のなかにそれまでにはなかった発想が生まれてくるのがわかったのです。百貨店マンでありながらも、その枠組みにとらわれてはならないということを、教えてもらった気がします。

目の前の仕事に集中しようとすればするほど、つき合う人も、普段自分の周りにいる人や自分と同じような人間に偏りがちなものです。そして、知らず知らずのうちに会社や業界の論理にとらわれて、それが絶対的な基準になっていく。すると発想も、従来の枠組みを出ない限定的なものになってしまうのです。そうならないためには、できるだけ自分とは異なる人たちに会うことです。

いつも新しいことに取り組むからこそ、心地よい緊張感をもって働けるし、お客様にも期待を超える感動を提供できる。一人一人がそれぞれの仕事のレベルにおいて、少しでも新しいことを取り入れていけるかが、組織全体の仕事の楽しさ、そして強さを左右するのではないでしょうか。

新しい試みがすべて成功するとはかぎりません。私の経験上、3回に1回ぐらい成功すればいいほうではないでしょうか。しかし、変化するいまの時代に、失敗を恐れていままで通りのやり方に留まってしまうのは、未来に大きな失敗を招く行為なのです。

買い物をする場所が多様化する現在、百貨店にはよりきめ細やかな接客や、より質の高いサービスが求められます。店休日の導入や営業時間の短縮を決めたのも、現場がより活力をもって働ける環境をつくることで、新しい時代の百貨店のモデルづくりに挑戦するためです。

お客様から「このサイズの靴はないの?」とご要望があれば、そのニーズに応えるよう努力する。当然それは、たいへん重要なことです。しかし、お客様からいわれてから動く御用聞きだけではダメなのも事実。お客様が口にはしないご要望、もしかしたらお客様ご自身も気づいておられない潜在ニーズを察知して、先回りして応える。それこそが仕事の面白さです。

どんな仕事であっても、その先には必ず「お客様」がいます。自分の働きが、誰に、どんなふうに役立っているのか。それを自分の目でみて、仕事のやりがいを再確認する必要があります。私も社員によくいっていますが、管理職ほど意識して現場に足を運ぶべきでしょうね。

多くの人に当てはまることだと思いますが、入社当初は現場にいて、その仕事の面白さを肌で実感していたはずです。だからこそ、いまの会社、いまの仕事でこれまで続けてこられた。しかし年数を重ねて、中間管理職の立場になってくると、次第に現場から遠ざかってしまう。百貨店の場合なら、店頭よりも事務やマネジメントの仕事が増えて、お客様の顔を直接みることが少なくなってしまうのです。そうすると、自分がなぜこれまでこの会社で働いてきたのか、だんだんみえなくなってくる。その結果、毎日雑務に追われるばかりで、仕事がつまらないと感じてしまうのです。そんなときこそ、原点に返って新人に戻ったような気持ちで、現場に立ってみるのがいいと思います。

私は社長になったいまでも、店舗を見回る際に思わず、接客に夢中になってしまうことがあります。百貨店の仕事の面白さは、なんといっても目の前のお客様に喜んでいただけることに尽きます。どんなに疲れていても、店頭に立つと元気が出てくる。この気持ちは、業界に入ってから今日まで、変わらずに持ち続けてきました。

ホールディングスの社長といえば、社長室や会議室にとじこもり、役員や部長と話をしているイメージがあるかもしれませんが、私は違います。むしろ現場の社員と密にコミュニケーションを取ることを心がけています。

お客様に挨拶するのは当たり前ですが、仲間への挨拶も重要です。そこから会話が始まり、会話が重なって対話となり、コミュニケーションが成立するからです。

目を向けるべきは、同業者ではなくコンビニエンスストアであり、IT企業。コンビニエンスストアは商品開発にしのぎを削り、IT企業は既存の企業では想像しがたいほどのスピードで時代に合わせた変化を実現しています。最先端を走る企業の姿を見ていかないと生き残っていけない。

伊勢丹は昔から「革新」を標榜してきた百貨店でした。それだけに、物事の進め方、考え方がスピーディーです。「原則的にはこう思います」「今、検討しています」「でも……」といった言い方や言い訳は許されず、常に行動と結果を求められました。

経済環境や経済要件はこの商売では大事な要因ですが、それで一喜一憂していてもしょうがありません。それ以上に、百貨店が低迷を続けてきた本質的な課題の克服に注力すべきです。

売り上げが伸びない中で営業利益率を上げるには、売上高総利益率を向上させるしかない。そこで、約2年間、仕入れ構造改革を進めてきた。コスト削減には限界があり、自分たちでリスクをとって商品を仕入れ、利益を稼ぐ必要があるからだ。百貨店のサプライチェーンには相当な無駄がある。自分たちでやれば一貫してできる。しかも、お客様の声を物作りに反映し、仕組みを効率的にすることで、現在以上の価値ある商品を提供できるし、利益が残る。

三越日本橋本店はロイヤリティの高いお客様がいらっしゃるが、売上は前年割れで、お客様の満足度が落ちている。まずは、この方たちへのおもてなし、ライフスタイルへのかかわり方を見直す。仮説をたくさん持ってトライアルし、その後に再開発を進めたい。

問題は、閃いたネタをスピーディに事業化できるかということです。

自分と違う世界の人と会うとたくさんのヒントがもらえます。雑誌編集者、コンサルタント、ITクリエーターなど、普段仕事では縁のない人たちからの情報はすべてが新鮮です。

すべてのビジネスの種が発芽するわけではありません。だから、世の中の隅々にまで目を向け、できるだけたくさんのビジネスの種を集めてくることが大切なのです。

いまはまだ注目されていなくても、大きな花を咲かせる可能性を秘めた種を探し、それを2年、3年かけて育てるほうにこそ、大きなビジネスチャンスはある。

商品数が減れば、売上が落ちてもおかしくありません。ところが新宿本店の改装で陳列商品点数が12%減りましたが、10%以上も販売額が伸びました。環境空間と売上の関係を定量的に分析するのは簡単ではありませんが、以前にも増してお客様がリラックスし、ワクワクしながら買い物を楽しめるようになったことがひとつの要因だと思っています。

伊勢丹新宿本店の改装では、百貨店の常識にとらわれず環境と空間を優先した店づくりを進めようと、あえて業界とは無縁の気鋭のデザイナーを起用しました。予想どおり、これまでにない斬新な案が提示され、現場のバイヤーとの衝突が起きました。しかし、お互い議論を重ねたことで、陳列商品点数は12%減ることになりましたが大胆で贅沢な内装を実現できました。

お客様が百貨店に求めるものとは何か。どうしたら私たちの店舗へ足を運んでもらえるか。三越や伊勢丹など個別の百貨店が生き残っていくには、たとえ目先の売上を犠牲にしても、それを考え、そこを目指すしかないのです。

残念なことに、質ではなく目先の量の確保に血道をあげていたのが、最近の百質店の姿です。前年同月比の数字を気にするあまり、季節のセールを前倒しにする、ムリな値引きに走る、といった手法で「今月だけ」「今期だけ」の売上を立ててきました。すると半面、質の追求がおろそかになり、百貨店の特徴や優位性は失われ、長期的にはさらに販売額や存在感が低下します。業界はいま、こうした負のスパイラルから抜け出せなくなっているのです。

リアルからネットへみたいな言われ方をしていますが、最終的にはお客さまが使い分けることですから対立軸のようなとらえ方はしていません。ただ、伸びているチャネルであるので、力を入れていきます。

経済環境や経済要件はこの商売では大事な要因ですが、それで一喜一憂していてもしょうがありません。それ以上に、百貨店が低迷を続けてきた本質的な課題の克服に注力すべきです。

お客様は独自性のあるものを求めるもの。自分たちで考え、お客様に付加価値のあるものを提案・提供していけるように、お客様が店に入ってワクワク、ドキドキするような店をつくっていきたい。

いまもできるだけ店頭に立つようにしています。特に、当社は水曜日が「週のはじまり」なので、開店時にはご挨拶のために店頭に立ちます。店頭の意見は、とても参考になりますね。

一度プライスラインを下げてしまうと、店の格が落ちてしまうので、再び上げるのは難しい。デフレ局面でも「プライスラインは動かすな」と厳命していました。

伊勢丹新宿本店のリモデル(改装)の際に考えたのは、「百貨店の良さを取り戻したい」ということでした。「目的買い」だけでなく「遊びに行こう」と思い出していただきたい。店を出たときに「今日は楽しかったね」と満足していただけるか。お買い物をしていただけたかどうかは二の次です。

極端なことを言うと、社長がいて、あとは全部フラットというのが理想です。社長直下にいくつものワークグループがあって、そこから直接上に情報や報告が上がってくるようなイメージです。過去には、7層くらいあった階層を5層にしたこともありました。もう伝達ゲームの時代ではないということですね。

「モノ余り」の昨今、消費者は本当に必要なものしか買わなくなっている。それが、アパレルを中心とした百貨店の売上高の落ち込みに直結している。いわゆるモノよりもコトへの消費が増えたことで、「相当の価値があるもの」「心が動かされるもの」でなければ買わないというのは当然と言える。

本当は「社長が行けと言ったから海外出張に行く」とか「社長がやれと言ったから新しい事業をやる」というのは、いいことだとは思いません。やはり組織全体が常にイノベーションをしている中で、新しい事業が組み立てられていくというのがあるべき姿です。今年はイノベーションのマインドを持った人材を育てるための人材投資をやっていきたいと思っているのですが、ここがいま、社長として一番苦労している点ですね。

私は「お金を使ってもいいし、失敗してもいいから新しいことをやってくれ」と常々言っているのですが、それでもなかなか手を挙げる人がいないのが現状です。そこで、経営戦略本部の中にマーケット開発室という部署を作りました。きちんと予算もつけるから、とにかく新しいことをやってくれと。

いま、30代の若手社員に積極的な投資をして、なんとかプロフェッショナルなスキルを持った人材を育てたいと思っています。社内ビジネススクールのような場を設けて勉強させたり、ともかく外に出て刺激を受けるよう、日常業務の中で外部の人材に引き合わせたり、あるいは海外出張に行く機会を積極的に作ったりしています。

私としては新規事業をどんどんやっていきたいのに、残念ながら丸ごと任せられる社員がいない。ウェブを作ろうと思っても誰も作れないので外部からプロを採用しましたし、スーパーも利益が出ないので中身をチェックしてみたら、やはりプロがいないことが問題だとわかって外部から採用しました。

いま、一番危機感を持っているのは、社内に百貨店以外のスペシャリストが非常に少ないということです。一定のフォーマットの中で平均的にいい点数を取った人材が入社してくることが多いので、いくら会議をやっても同じような意見しか出てこない。

入社して7年目に吉祥寺店準備室に配属されたときの上司は、夜のつき合いがすごかった。毎晩飲み歩きながらいろいろな業界の人とコネクションを作っていくのです。彼から学んだことは、貨店の中にだけいるのではなく、とにかく外に出なければ視野は広がらないということ。そして、つねに新しいことを考えていないと、小売業の世界では生き残っていけないということです。

英国にエドワード・グリーンという靴メーカーがありますが、そこは年間に1万足ぐらいしか作らない。でも、本当に価値のある靴なので3年も4年も英国に通って、やっと期間限定で納品してもらえることになったのです。そうしたら、15万円もする靴がわずか2週間で100足近くも売れてしまった。このように、メンズでもプライスライン(一番売れる価格帯)よりはるかに値段の高い高級品が売れることを逐一社長に報告しながら、男性客の中に高額商品を購入する「兆候」があるという証拠を揃えていきました。社長もそれを真摯に受け止めてくれました。

海外勤務から戻ったとき古巣の紳士服に再び配属されたのですが、旧伊勢丹は婦人服が強くて投資もほとんど婦人向けばかり。紳士は他社も含めて低迷をきわめていました。でも「自分たちだけは何としてもこの低迷を突き抜けたい」という思いが強くあったのです。そこで、職制をすっ飛ばして、当時の社長に50億円の投資を直訴しました。

いまの百貨店はモノを買っていただくというより、まずはご来店いただくことが最優先。他ではできない体験や、何か新しいことをやり続けていかないといけない。

我々は消費環境が悪いからとか、業績が悪くなったから価格を下げようとは思っていません。我々は人口減少時代に入ったということもあって、入店客数は3%ずつ減少していくという仮説を立てています。そうすると、お客様お一人当たりの購買額が上がってこないと売上は伸びません。そのためには、当社にロイヤリティを持っていただいているお客様に対するアプローチを今まで以上に強めていかないといけません。

今回の3カ年計画は、売上げは伸びないという前提を持っての計画。お客様の数は減る。だから売上げが伸びない中でどうやって18年度に営業利益500億円に持っていくかという話の中で、私どもがやってきたのが構造改革、いわゆるサプライチェーンの改革。価値の高いものをご提案することをいま必死にやっている。

百貨店事業はいまのままではダメ。エンターテインメントとか文化的なものをビジネスモデルとしてつくり直していく。わざわざお越しいただける環境空間づくりが大切。

新宿の伊勢丹は、元々は駅から遠かった。駅から遠いので、とにかく自分たちのお店にしかないもの、他と違う商品開発をするというDNAが歴史的にある。

商品が高いとか安いとかではなくて、「絶対的価値」と「質」がキーワード。これまでも弊社ではずっとフォーカスしてきた事ですが、百貨店はそこを追求していかない限り生き残りは困難。

越伊勢丹では「プライスライン」という言葉を使っていますが、要するに「一番数量が売れる価格帯」を常に意識しながら品揃えをしています。

百貨店にとって重要なのは「お客様の生活にどれだけかかわっていけるか」ということです。お客様の生活に徹底的に関わり合いを持たせていただくために、三越、伊勢丹それぞれのよさを店頭でどのように活かしていくか。それが、今後の課題になると思っています。

経営統合はしましたが現状では、あくまでも三越と伊勢丹という2つの「のれん」があり、それぞれのお客様が異なるというか、はっきり言うと、真逆のお客様を抱えている。これをひとつののれんにしてしまうということは、非常に難しい。いい例が、大阪です。「三越伊勢丹」と、二つののれんをくっつけてしまったためにうまくいっていません。つまり現状では、三越、伊勢丹それぞれに異なるブランド価値があって、そのいずれかをご評価いただいているということだと思います。

百貨店はこれまで売れなかった場合のリスクを負わない経営をやってきました。百貨店は本来、価値が最も高い商品を売る役割を担っていましたが、リスクを負わない商売を長く続けた結果、そうではなくなってしまっていました。

日本全体で小売業の売上は130兆円強ありますが、そのうち百貨店の占める割合はわずかに6兆円、5%程度にすぎません。もしも百貨店が全小売業のなかで50%のシェアを持っているのであれば、デフレやインフレの影響を考慮する必要があると思いますが、5%という少数のお客様の支持を得られればいいと考えたら、そこにこだわる意味は薄い。我々は独自路線でいいのです。

ここ数年「価格、価格」と言われ続けてきて、多くの百貨店が価格を下げることでデフレに対応してきたのは事実です。しかし三越伊勢丹は、プライスライン(一番数量が売れる価格帯)だけは絶対にいじらない方針を貫いてきました。

この先、縮小する市場の中で成長を続けるには、我々が既存の壁を越え、新たな場所や事業に乗り出さなくてはならない。それを成功させるには、我々の強みを武器にする必要がある。

我々のリスクは、売り上げや利益に占める百貨店事業のシェアが極めて高いことです。このまま放置すればさらにリスクが増すはずです。百貨店以外の事業も成長させないと将来の多様化に付いていけない。

これまでの百貨店の姿にこだわらず、お客様の求める形を提案しなければならない。そのために百貨店の「壁」を越えることが必要ならば、それを実践すべき。

何よりも守り、育てなければならないのは、「人」と「現場力」。いかに人を育て、現場力を高めるか。経営者として、私はそのために常に模索し、挑戦していきたい。

農水省に出向した若手は1カ月で顔つきが変わりました。JR東日本に出向した若手も、戻った時には明らかに成長していた。こうした学びのチャンスを増やしていかなくてはなりません。

我々はサイバーエージェントと組んで新たなビジネスを始めると発表しました。サイバーエージェントのみなさんはとても若く、意思決定や事業展開のスピードも速い。出向こそしていませんが、彼らと一緒に仕事をする我々の社員は、こうした全く異なる企業の考え方や働き方に触れ、刺激を受けるはずです。自分の仕事の仕方を変えていくようにもなるでしょう。

百貨店業界の人は、ほかの業界と比べると視野が狭くなりがちです。ですから視野を広げるためにも、どんどん外に出た方がいい。そこで最近は、若手社員を中心に異業種への出向を促しています。

どんなにいい商品を作ったとしても、販売員がそれをしっかりと売らなければ改革は実現できません。本当の意味でビジネスモデルを変えるには販売員の力が不可欠です。そのためにもモチベーションを高める制度が必要なのです。

百貨店がダメになった大きな要素の一つは、働く人の環境の悪化だと思っています。売り上げが落ちると、それを補うために各社が営業時間を延ばし、定休日をなくしていった。同時に売り場で働く人を減らしてコストを抑えていきました。営業時間が長引くほど労働環境は悪くなりますから、小売業全体の人気がなくなります。店頭の人を減らせばお客様の声を聞くことも難しくなる。こうして百貨店のコアコンピタンス(中核能力)である接客力が低下していった。

歴史あるブランドの改革を迫られた時、多くの経営者が頭を悩ますのは、何を守り、何を壊すのかということでしょう。メスの入れ方を違えば、ロイヤルティーの高いお客様を失うばかりか、ブランドの歴史や価値を損ないかねません。そうなるとブランドは終わってしまうでしょう。私はその解を、お客様が期待する店の姿を知ることで見極めました。

伝統に支えられてきたものは、どうしても時間を経る中で、そのスケールやロイヤルティーが落ちていきます。存続するには新たなことに挑戦しなくてはなりません。

変わらなければ生き残れない。強い危機感を抱き、根底からビジネスモデルを見直しました。百貨店不振の真因は、同質化と販売力の低下にあります。同質化を裏返すと独自性。そこで独自性を磨き、販売力を取り戻すための改革に着手したのです。

私は、将来、百貨店がなくなることは決してないと思っています。現在の百貨店にお客様が満足していないのであれば、それは我々が、時代やお客様の変化に対応できていなかったためでしょう。あるべき姿を見つめ直し、お客様に支持される形に生まれ変われば、百貨店はこの先も必ず残っていくはずです。

百貨店での価格は、商品原価をはじめサプライチェーンの諸条件や、ソフト面での販売やおもてなし、サービス、内装などの環境空間といったさまざまな価値が織り込まれて成り立っている。最終的にはお客様が判断されることであり、この商品は、この価格、このサービスで、こうした環境で購入する、ということを納得していただける価格設定を今後も行っていく必要がある。

伊勢丹が商品にこだわっていた理由は、立地という要因も大きく影響しています。伊勢丹は新宿のどの百貨店よりも駅から遠い。ですから、ほかにない商品を提供することで「伊勢丹」というブランドを確立し、そのブランド力で「わざわざお越しいただけるお店づくりを目指す」という強い思いが、伊勢丹のDNAとして刻まれていたのだと思います。

私は売上だけが世界一の指標になるとは思っていません。三越伊勢丹グループが目指すブランドの指標としては、わざわざ足を運ぼうとしてくださるお客様が多数いること。世界中のどの百貨店にも真似のできないことを実践していること。どのカテゴリーであるかは別として圧倒的な強みがあること。こうした視点が必要であると考えています。果たして、これらの視点でも世界一と言えるような百貨店になっているでしょうか。まだまだそうとは思えません。

大西洋の経歴・略歴

大西洋、おおにし・ひろし。日本の経営者。伊勢丹社長。東京出身。慶應義塾大学商学部卒業後、伊勢丹に入社。営業本部MD統括部紳士服・洋品営業部商品担当長兼支店担当長・洋品営業部長・紳士第一営業部長、執行役員経営企画部総合企画担当長、執行役員営業本部立川店長兼立川店営業統括部長、常務執行役員、三越常務執行役員百貨店事業本部MD統括部長、などを経て伊勢丹の社長に就任。

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