佐藤正午の名言

佐藤正午のプロフィール

佐藤正午、さとう・しょうご。日本の小説家、エッセイスト。長崎県出身。『永遠の1/2』で作家デビュー。すばる文学賞、山田風太郎賞、直木賞を受賞。

佐藤正午の名言 一覧

誰かの意見を聞いて、それをそのまま取り入れるわけではないですが、新しいアイディアを思いつくきっかけにはなります。自分ではない誰かの思考をあいだに挟むことで、一人ではたどりつけなかった一段高い場所から景色を見ることができるんです。

小説家になりたいという衝動があったというより、たくさんの小説に触れているうちに自分でも書いてみたいなと思いたちました。でもこのときの応募作は、ストーリーの起伏もたいしてなかったですし、タイトルも覚えていません。書いてみたことで自分の文章がうまくないのも自覚して、その後、いろいろな作品を読みながら学んでいった気がします。丸谷才一さんの文章をお手本にしていた時期もありました。

自分からなりたいと思った職業は小説家以外になかったし、大学をやめたころは、文章を書いて食べていけたらどんなに幸せだろうと思っていました。それが現実になったんだから、幸せなことですよね。当時はなにも感じていなかったけど、ふりかえれば、よく編集者たちも佐世保まで通ってくれたと思います。編集者に恵まれて直木賞までいただけて、僕は本当に果報者です。

『Y』あたりから、ストーリー展開を気にするようになりました。その2年前に出した『取り扱い注意』という本が全然売れなくて、小説を書くのをやめようと思ったくらいショックだったんです。しかも、読んでくれた数少ないひとりの編集者には「これじゃ売れませんね」と言われて(笑)。自分では他の作品と同じくらい手をかけて世に送り出した作品ですし、今でもだめだと思っているわけではないんですが、売上に結びつかないのだから何か理由があるのだろう、このままではいけないんだろう、と考えを改めるきっかけになりました。具体的には、それまで誰にも相談せずにひとりで書きあげていたのをやめて、書きだす前の思いつき段階で、友人や編集者に意見を聞いてみるようになったんです。

最近とても面白い小説を読んだんですよ。とある作家さんによる文庫本の上下巻。体力の衰えてきた最近では一冊読み切るのも時間がかかるのに、興奮のあまり2日で全部読み終えてしまった。そのなかに並木道が登場するんですが、それが欅なのか銀杏なのか、詳細は一切書かれていなかったんです。作中の重要なシーンとして何度も描かれるので、それが少し気になって。というのも、きっと僕なら並木の種類や葉の色づきなど、情景を細かく描写するだろうなと思った。もちろん並木道がどんなものであろうと重要なのはそこで起きる出来事だから、関係ありません。現にその小説は描写がなくても十分に面白いし、その点が物語の質をなんら損ねるものではなかった。だとしたら、僕が積み重ねてきた描写にはなんの意味があったのだろう、もしかして僕の書き方はくどいだけで間違っていたのだろうかなどという思いがふとよぎりました。もちろん正解なんてないんでしょうが、今後も小説を書き続けていくうえで、考えさせられる一件でした。

僕の書いている小説のエピソード、そのひとつひとつはありえない話ではありません。たとえば『身の上話』の主人公・ミチルは、不倫相手にくっついてふらっと地元を出て行ってしまう。それ自体は僕の知人女性の実体験がもとになっています。その先で、たまたま宝くじで高額当選していることに気がついた彼女は、東京に居つくことを決めるのだけど、日本中のどこかで誰かが当選しているのだから、これもまた起こりうる話。さらに殺人事件に巻き込まれることについても、理由なく誰かが殺されてしまうことが簡単に起きる世の中ですから、なんら不思議ではありません。だけど、どれもたいていの人の日常からはかけ離れているから、事実をそのまま羅列するだけでは「こんなのありえない」と言われてしまう。はずみで駆け落ちするのならば、そのはずみがどういう経緯で起きたのかを何ページもかけて読者に説明して初めて、読者は「ああ、だからこういう事象に至ったのか」と納得してくれる。それを成すのが小説であり、嘘を本当に見せるということだと僕は思っています。

特別なことは何もなかったと思いますよ。どこにでもいる普通の子供でしたし、友達と一緒に図書館へ行くことはあったけど、読んでいたのも『怪盗ルパン』や『シャーロック・ホームズ』などみんな夢中になっていたものが多かった。むしろ身体を動かすことのほうが好きで、中学のころは軟式野球ばかりやっていました。小説をちゃんと読むようになったのは、野球をやめた高校時代から。人と違っていたことがあるとすれば、受験勉強が苦にならなかったことくらいかな(笑)。決まった目標があるので、それをクリアするためにコツコツやるのは得意だった。だから成績はいいほうだったと思います。

何か小説に使えそうだと思ったら、あてがなくてもメモしますね。たとえば、そのうち食べようと思って自宅にラーメンやスナック菓子を買い置きしておくでしょう。食べずにほったらかしにおくと家族が勝手に食べちゃうんだけど、そういうとき、僕はいつも怒るんです。だって、いつかくるんですから、食べるべきときが。僕はそのときを待っているだけで、存在を忘れているわけじゃない。メモも同じで、いつか必ずくる使う日のためにストックしておく。もちろん未だに使わずにいる古いメモがありますが。そのときが来るまで寝かせておきます。

佐藤正午の経歴・略歴

佐藤正午、さとう・しょうご。日本の小説家、エッセイスト。長崎県出身。『永遠の1/2』で作家デビュー。すばる文学賞、山田風太郎賞、直木賞を受賞。

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