塚越寛の名言

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塚越寛のプロフィール

塚越寛、つかこし・ひろし。日本の経営者。伊那食品工業会長。長野県出身。肺結核により高校を中退。21歳のとき、働いていた材木会社社長から系列会社、伊那食品工業の社長代行に就任することを求められ同社に入社。倒産寸前だった伊那食品工業を大きく成長させた。主な著書に『いい会社をつくりましょう』『リストラなしの年輪経営』『幸福への原点回帰(共著)』など。日本寒天工業協同組合理事長なども務めた経営者。主な受賞歴に、科学技術庁長官賞(科学技術振興功績者表彰)、農林水産大臣賞(リサイクル推進協議会)、黄綬褒章、優秀経営者顕彰制度最高賞最優秀経営者賞(日刊工業新聞社)など。

経営者は「俯瞰のイメージ」を持っておくことが大事。日々の経営で悩みは尽きないものだが、視点を変えて地球を俯瞰してみれば、答えはおのずと見えてくるものだ。


新規事業で参入する分野は新しいかどうかではなく、他人に必要とされているかで決めるべきだ。会社を経営するということは、他人を幸せにすることだ。


カネは、社会の役に立つ活動をした後に結果として付いてくるものにすぎない。


優しさは「人を憂える」と書く。経営者が社員を憂いていれば、社員が敵になるようなことはない。むしろ会社のために自分の時間を喜んで提供してくれる味方になる。


ファンをつくれば、同じ顧客が何度も繰り返し購入してくれるので、販促費をそれほど使わなくて済み、利益率は高まる。口コミで少しずつファンが増えるので、売り上げも上がる。


過去に何をしたか、どんな発言をしたかで、資質を判断すべきではない。大事なのは、これから彼が何をするかだ。


人は勉強することさえ怠らなければ、常に成長し、進歩する生き物。


数字を追うことは、あくまでも手段であって、企業が進むべき道ではない。


急がず、ゆっくり、末広がりに。それが私の考える、会社のあるべき姿。


ファンを増やすことは、持続的な成長につながる。


会社を永続させるには、経営者がよく学ぶことが欠かせない。


社員は経営者の本気度を見ている。


価格競争に勝って得た成長はいずれ自分の首を絞めることになる。


成長には終わりがない。終わりがないのだから、急がずゆっくりと、どうしたら安定飛行できるかにエネルギーを注ぐべき。


「自己実現ができないような会社にしがみついているのは負け組だ」と若い人が言うのは間違っている。「自分で努力して、この会社を変えてやる」くらいの気構えが欲しい。


ひとつの時代が終わったら、次の時代が来るのが世の常。


全社一丸となった時こそ、会社は最大の能力を発揮できる。


成果主義や能力給では、会社の「和」は保てず、全社一丸となって事に当たるのが難しくなる。


自分一代で何かを成し遂げようとする思いが「野心」であり、一代ではとてもできない大事業を次代につないでいく、祈りのようなものが「志」である。


社員が、「以前よりも幸せになった」と感じられることこそ、本当の意味での会社の成長である。


商売というのは、結局はすべて他人のためなんです。自分を忘れて他人を利するということを徹底してやる会社が残っていく。


お客様は会社を好きになれば、値段が高い、安いに関係なく、その会社の製品を買うようになる。だから会社のファンを増やそう。


経営においては、その業績が本当に自分や会社の実力なのか、単に追い風によるものなのかの見極めが非常に大事。


会社が永遠に続くためには、ある程度の規模になったら成長を急ぐことはない。


私は会社というものは生物と違って終わりがなく、永遠に続くことが大前提であり、また理想だと考えている。


人間というのは、追い風が吹くと、それが自分の実力だと思いがち。


混沌とした状況を憂い、会社をどう経営していけばいいかと悩んでいる経営者がいたとしたら、私はこんな言葉をかける。「そんなに急いでどこに行くの?」と。


私は高校生だった17歳の時に重い病にかかり、「生きるとは何か」「人生とは何か」を真剣に考えた。そこから得た教訓は、経営者になってからも生きているように思う。


常日頃から相手に敬意を尽くしていれば、困ったときに手をさしのべてもらえる。


経営者が成長だけを求めると、組織の中に無理が生じてくる。


経営者がやるべきことは、社員に安心感を与えること。安心感を与えることは、社員のモチベーションアップにもつながる。


「人を幸せにする」という人間の原点にのっとった戦略を真心を込めて実行すれば、結果として成長につながる。人間として、「利他」の精神を大切にしながら、日々努力すればいいのです。


経営者は、何が何でも自社の社員を守り抜くことを肝に銘じなければなりません。私は、「社員を守らずして何が経営者と言えるか」という強い気持ちで、あらゆる面から社員を守る仕組みをつくってきました。


一人の人間の人生において、たとえ小さくても周りの人を幸せにすることができて、感謝され、人に迷惑をかけず、さらに自分の好きなことを楽しむことができれば、その人は十分に成功したと言えるのではないでしょうか。


進歩し続ける世の中にあって、現状維持は退歩しているのと同じです。拡大主義という意味ではなく、地に足がついた状態で常に成長していくのは、企業にとって非常に重要なことだと考えます。


社員一人一人の成長の総和が、会社の成長である。


本来、人は幸せを追求するものとすれば、会社は構成する人々の幸せの増大のために存在すべき。


会社の目的は、成長でも利益でもない。会社の目的は、一人でも多くの人を幸せにすることにある。


会社の永続には、経営者が「遠きをはかる」ことが欠かせない。


大事なのは、他社よりも大きく成長することではなく、ずっと成長し続けること。


道を欠いた数字の追求は、「不正をしてでも数字を達成しなければならない」という考え方に社員を導いてしまう可能性がある。


重要なのは継続ですよ、継続。創業のころからずっと続けているから、環境整備も朝礼も生活のリズムになっているのです。


会社が永続することは社員や社会への貢献になります。永続するためには、周囲の好意が必要です。あそこはいい会社だね、と思ってもらわなくてはなりません。庭園を開放し、毎朝、環境整備をやっているのもそのためです。


私は、この会社を社員と地域にとって理想郷にしたい。そのためにも、これまで通り「末広がり」の経営を推し進めていきたいと考えています。「末広がり」とは、閉塞感がない状態のことで、これによって社員にゆとりが生まれます。ゆとりをもって生きることができれば、未来に対して希望を持ち、ボランティア活動をしたり、環境問題などにも積極的に取り組むようになる。


競争相手が多いところでは価格競争に巻き込まれてしまいますが、新しく用途開発したところは、同業他社が追いつくまでは全部うちのシェアですから収益性も高い。中小企業の生きる道は、開発型企業になることだと、従業員の1割以上を開発要員にあてています。


私は常に会社の永続を目指すと社員に話しています。会社が長く続くためには急成長は必要ありません。屋久杉の年輪をご覧になったことがあるでしょうか。年輪はものすごく細かいのです。屋久杉は低成長だからこそ、6000年も生きていられるのです。会社も同じです。一年の成長が少ないほど長生きできるのです。


ビジネスマンにとって必要なのは、自分なりの軸を持つことです。いくら本を読んだり、勉強会に出ても、自分自身の軸が確立していなければ他人の意見やトレンドに流されてしまいます。


人生にはつらいときや苦しいときがあります。でもそんなときは「自分は小説の主人公なんだ」と思い込めばいいのです。そして、「小説の中でいまはつらい時期だ。しかし、この小説(人生)は必ずハッピーエンドで終わる」と考えれば、乗り切ることができます。


人間関係を良くするために何をするかと問われたら、答えはひとつしかありません。それは利他ということです。自分だけの利益を追求するのではなく、他人も一緒に幸せになろうということです。私にとって利他の対象はまずは社員です。


社員に対してこう言ったことがあります。「うちもルイ・ヴィトンみたいなブランドになろうよ」。みな怪訝な顔をして「そんなの無理ですよ」と返してきました。私は再び問いました。「どうして無理なの。何も明日や明後日にヴィトンになるって話じゃない。俺が死んだあとの社長でもいいし、その次の社長でもいい。50年、100年かければできないことはない」と。


会社として形になってきたのは責任者になって20年も経った頃です。うちはほんの少しずつ成長して、いまのような形になりました。


部下を怒ることもあります。しかし、それは仕事の成績が悪いといった理由ではありません。そして、自分の感情に任せて声を荒げたこともありません。叱責するのは怠慢に対してです。何度も同じミスをしたり、約束を破ったり。実際、そのような部下は少ないですが、そういった場合は机をたたいて怒ります。


社員の自宅が火事で全焼したことがあります。消防署から第一報が入ると、私はすぐに陣頭指揮に立ちました。「第一班はすぐに駆けつけろ。状況がわかったら俺に知らせるんだ。第二班は炊き出しの用意をして現場に急行すること。そして、第三班は待機だ」と。社員は火事の現場に駆けつけてきて、それぞれ着るものや家具をカンパしました。会社は被災した社員に建て替え資金を貸し出しました。利息は一切取りません。家事に限らず、私は困っている社員がいれば、何でも面倒を見ます。そして、約束したら絶対に守る。この50年間、それを続けてきました。


機械はカタログに書いてあるスペック以上の仕事はしません。しかし、人間はやる気になったらやる気のない人の3倍くらいは働きます。人間は頭を使うから、自分で工夫して仕事の能率を上げていきます。


うちは「仕入れ先を大切にする」「町づくりをしっかりやる」といった決め事が10か条あります。その精神は、公を意識しながら会社を運営していくことの大切さです。公を意識することは、すなわち自分自身の行動を客観的に眺めることにつながります。経営者や上司が公の意識を持ち、大きな視点で行動していれば、おのずと社員たちとの付き合い方にも節度が出てきます。


時間をかけることに対しては、人は鈍感です。目標を達成するには時間軸を長くとって、自分の未来に自信を持てばいい。そうすればたいていのことは実現できます。ただし、目標の達成は未来のことでいいけれど、着手は今すぐでなくてはならないのです。


会社の成長というと世間一般では売上高が増えることと考えています。しかし、我が社の定義は違います。仮に売上高が同じでも、適正な利益があり、その利益を正しく使って外部の人も社員も「自分は成長した」と実感できれば、それが成長です。キザな言い方ですが、社員全体の幸福度の総和が大きくなっていくことが当社の成長なのです。


父が早くに亡くなり、母が子供5人を抱えて働いました。貧乏暮らしだったことに加えて、私は17歳で結核にかかり、3年間病院で寝ていた。逆境にいたから人の痛みはよくわかります。社員たちの態度がすぐに変わらなくても、自分が相手に対して愛情を示し続けていればいいと思っていました。


家族のように思うといっても、私は特定の部下と飲みにいったりはしないし、社員の結婚式にも極力、出ないようにしています。全員の式に出席するのは不可能だからです。加えて、当社では部下は上司に贈り物をしてはいけないと決めています。逆に上司が部下におごったり、プレゼントするのは大いに結構。どんどんやりなさいと言ってあります。


一般の会社だと、社員持ち株会などをつくって、株をわけたりします。そかし、それくらいのことでは、社員は会社を家庭だとは思いません。そこで、まずは情報を共有することにしました。当社では幹部だけが知っている数字などありません。製品をどれだけ売って、どれだけ儲かったかは社員なら誰でも知っています。また、リストラをやったことはないし、これからもしないつもりです。給料も地元では高い方です。社員旅行も、一年おきに海外へ出かけています。万が一、社員や家族の身に何か起きたら、私が完全に面倒を見ます。


社員のやる気を引き出すのに、具体的に何をすればいいのか考えた末に、ひとつの答えを出しました。やる気を出すには、社員に「これは自分の会社だ」と思わせればいいのです。社員が自分のうちのように感じる会社にすればいいのです。たとえ会社ではダメ人間でも、うちに帰れば立派なお父さんだという人はたくさんいます。金を稼いで、家庭を守り、子供の面倒を見る。家族を守ることに手を抜く人間はいません。それは「家族は自分のもの」と思っているからです。


会社を強くするものは何か、経営者としてずっと考えてきました。出た答えは、「社員のやる気を引き出すこと」でした。やる気を引き出すことさえできれば会社は強くなります。


私は社員にこれこれこれだけの成果を上げろと、売上げなどの目標設定は一切しないんです。そのかわり、礼儀作法には口うるさい。例えばスーパーなどへ駐車するときは、決して入り口の近くに駐車するな、できるだけ遠くにおけ、といつも言ってます。入り口の近くに駐車してしまうと、体の弱い人やお年寄りなどが入り口から遠くに車を止めなければならないでしょう。社員に会うたびに口酸っぱく言うものだから、みな私の顔を見ると「ちゃんと遠くに止めています!」とこちらが聞く前に返事をする(笑)。まあ、きっと実践してくれていると思いますよ。


当社は、地域に根を下ろした企業活動をこれまで続けてきたし、これからもそうありたいと思っています。東京には支社はつくっても、本社はこの伊那から動かすつもりはありません。地元にかわいがってもらって育ってきたのだから、地元に税金を納め、雇用をつくりだすことも企業の務めだと思っています。効率だけを考えて、地方の会社が東京に出て行くけれど、それは違うと思います。


千載一遇のチャンスを棒に振ったとするコンサルタントもいるかもしれませんが、急成長してダメになる例をたくさん見てきました。規模を拡大して価格競争に巻き込まれるよりも、もっと大切な売り方や販売ルートがあるだろうと考えたのです。結果的に、「カップゼリー80℃(エイティー)」は贈答品や土産物などで全国的な人気商品になり、「かんてんぱぱ」ブランド商品を通信販売する会員システムにつながっていったのです。


儲けを法人税で納めるのも、社員の給料から所得税として納めるのも、国庫に入るお金という意味では同じ。利益も成長も、会社の目的ではなく社員の幸福を実現するための手段にすぎないんですから。会社の身の丈に見合ったゆるやかな成長を続けていけば、社員も取引先もみなハッピーで、リストラしたり、仕入価格を叩くといった無理をしなくてすむわけです。


昭和33年の設立以来、連続増収を続けてきましたが、これを維持できているのは、無理をせず、ゆるやかに成長してきたからだと思います。急成長しようとすると、どうしても無理な投資をして、それを回収するために、大量に人を採用して、必死になって売上高を伸ばそうとする。けれど、業績が悪くなると一転、リストラをして人件費を削ろうとする経営者が多い。私はこういう経営は間違っていると思います。


開発担当者には寒天の基本物性にとらわれずに、そこからどれだけ逸脱できるかを常に視野に入れろ、と言っています。たとえば寒天は固まる力があるというのは常識で、強度が低くて固まらないものはこれまでは失敗作だった。でも、固まらない特性を持ったものを連続して製造できる技術力があれば、それは新しい可能性を秘めているはずです。この寒天の凝固力を抑えた「ウルトラ寒天」は、現在化粧品のファンデーションや口紅などに使われています。今後は医薬品の分野も有望ですね。


人はテクニックでは動かないんです。いろいろ考えてみましたが、「やる気がおきる会社」にするには、「自分の家と同じように思える会社」をつくることだろうと。誰だって、自分の家のことなら一所懸命になるはずでしょう。そうみんなに思ってもらうためには、ただ単に利益を上げればよいというのではなく、社員みんなのための会社づくりが重要であると考えたわけなんです。


「会社は経営者や株主のために存在するのではなく、いっしょに苦労してくれた仲間たち全員のもので、会社は社員の苦労に報いるために発展し、利益を上げる必要がある」という思いが強まっていきました。こうして、「会社の発展を通じて、社員がみな幸せになり、社員の幸せを通じて社会に貢献するべきだ」という、私の経営に対する基本的な考えができあがっていったのです。


現在の日本は閉塞感に満ちています。増税は来る、年金は減る、景気の見通しもよくない、こういう先細りの時代は、国民が幸せ感をもつことができない。多くの企業が利益や効率だけをモノサシにして、会社をマネーゲームの道具のようにしてしまったことが一因だと思います。巷では電光石火のように判断する経営者をもてはやす風潮がありますが、そうじゃないと思います。


クルマで通勤する社員には、本社の施設に入るときに右折するなとも言っています。朝の通勤時間の渋滞というのは、右折車があることが大きな原因ですから、遠回りになっても左折して会社にたどり着けと。こんなふうですから、みんな正義感は強いと思います。「溝にタイヤがはまったら、親切に助けてもらった」などという礼状が時折私宛に届くからわかるんです。自分が誉められるよりも嬉しいですね。


いまの若い世代が本当に欲しいと思っているのは、和やかな人間関係の中で、自由にのびのびと自主的に働ける職場環境だと思います。この環境についてはどこにも負けないと自負しています。


この社是「いい会社をつくりましょう」を掲げたのは、いまから10年ほど前になりますが、会社を任された当初から、いい会社をつくりたいという思いは常に持っていました。目先の利益を追い求めるのではなく、長期的な視野に立って会社を運営していこうと考えていました。それが企業の陣容が次第に整い、ようやく目指す姿を描きやすくなってきたということです。


結果として利益が拡大することはあります。でも、過大な目標を掲げて成長を追い求めることはいましめています。例えば、家庭向けの粉末寒天の「かんてんぱぱ」ブランド商品は、長野県と山梨県の一部でしか店頭販売していないのですが、昭和56年に販売を始めた「カップゼリー80℃(エイティー)」が人気を呼び、大手スーパーから全国の店頭に並べたいという申し入れがあったんです。私は、そのお誘いを断わることにしました。全国供給に応えられる態勢にないのに、ブームにのって規模を拡大させては、商品の寿命が尽きたときに業績が落ち込むと考えたからです。


かねがね私は社員の人件費ははたして「人件費」という「コスト」なのか疑問に思ってきた。人件費は、幸せを求めて働く社員たちへの労働の対価であって、削減すべきコストではないはずです。家内工業を思い浮かべてみるとわかりますが、社員に分配する人件費を稼ぐために一生懸命働いているでしょ。それが企業が大きくなると、コストだから減らせというのはおかしい。


異業種と研究開発面で提携していくために、ハイテク素材展とか、粉体工業展、エレクトロニクス展といった他業界の展示会にも積極的に出かけていきプレゼンテーションするんです。そこで情報発信すると、相手先からこんな分野に使えないかと相談が舞い込むようになるのです。共同研究することで視野が広がるし、自分たちだけでは考えもつかなかったニーズがわかる。いろいろなメリットがあります。短期的な収益だけを考えると、基礎研究の分野はとかくお金がかかって成果が出にくい面もありますが、将来の種まきとしては非常に重要ですね。


企業にとって重要なのが「永続」することです。潰れてしまっては元も子もない。私の座右の銘に、江戸時代の農政家・二宮尊徳の「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」という言葉がありますが、そういう長期的な展望が「いい会社づくり」には不可欠です。目先の利益だけを考え、短期的に高い売上高を追い求めて高収益を上げても、長続きしなければいい会社とは言えません。永続するためにゆるやかな成長は不可欠ですが、最低必要な成長でいいと私は考えるようになったんです。


みんなで努力した甲斐があって、会社は少しずつ発展してきたのですが、その過程で社員全員がたいへんな苦労をした。設備が故障して、その修理のために深夜まで働いたり、新しい設備を導入するために女性社員に炊き出しをしてもらいながら、数日間昼夜連続でがんばったりしたこともあります。そんな体験から、一緒に力を合わせてくれた社員のために何ができるのかを、ますます考えるようになりました。


普通は、経営状態の悪い企業を再建するには、まず人を削減して、機器を導入して合理化を図るというのが鉄則でしょう。ところが、人はいないし、資金がないから機器を導入することもできない。いったいどうしたら生産性を上げられるかというと、結局、残っているのは「人」だけだった。社員みんながやる気がおきる企業にするしかない。


私は体を悪くしたこともあって、大学進学をあきらめ、高校を中退してその木材会社に入りましたから、とにかく働けることだけでうれしくて、夢中で働いていた。そんな私の働きぶりを見て、社長はそれこそ一か八かで賭けてみたのでしょう。社長に見込まれ、思わぬ経営者人生がスタートしたわけですが、引き受けてみたはいいが、当時のうちの会社は、あるのは借金ばかりで、お金も信用も、技術もないという状態でした。そのうえ、木材会社から食品会社へいきなり移ったわけで、業種がまるで違いますから、わからないことだらけ。何をおいても勉強しなければというので、基礎研究のために化学の参考書を読んだり、生産技術を改善するために社員といっしょになって研究に取り組みました。


経営というのはマネーゲームではないんです。企業の目的は、本来、会社を構成する人々の幸せの増大のためにある。社員が精神的にも物質的にもよりいっそう幸せであると感じられるような会社をつくり、永続することによって雇用を守り、メセナなどを通じて社会に貢献していくのが真のCSR(企業の社会的責任)だと思っています。会社を取り巻くすべての人から「いい会社だね」と思ってもらうことが大切です。そうして支持していただくことによってこそ、企業は永続できるのです。


利益が大きければ、それによって多くの人々の生活によい結果がもたらされるのですが、利益を目的にすると、人件費をけちったり、支払うべきものを払わなかったり、正しい仕事を歪めたりなどの無理をすることが多くなりがちです。結果として見せかけの利益は増えますが、当然このような利益は人々の「幸せ」のために使われることは皆無で、その過程で不幸な人々が増えるということになります。


「幸せ」を求めて繰り広げられるはずの経済活動で、なぜ不幸が生まれてしまうのか。私は常にこのことを考えてきました。その結果得た結論は、目的と手段のはき違いをしているということです。


業績を上げたいなら、一気にではなくゆっくりと成長することが欠かせない。生物も、一気に繁殖すれば食べるものがなくなり自滅する。企業も限られた資源を大切に、一緒に働く仲間や顧客、取引先、地域をいたわりながら歩むのだ。いたわりあって企業活動を営んでいれば、人手不足に悩むこともない。


地球の直径は1万2742km。あなたの目の前にはそれを直径120cmまで縮尺した地球儀があるとする。では、その地球儀で空気の厚さはどのくらいになるか。答えは1mmだ。地球を俯瞰したとき、私たちはこのごく薄い層の中にいる。日々の勝った負けたがいかにちっぽけなことか。


「人の行く裏に道あり花の山」とは、千利休が読んだとされる句です。私が会社経営で大切にしている言葉です。花見の時期、山の大通りには人だかりができている。しかし、主道から少しそれると、人混みに邪魔されずゆっくりと美しい桜を楽しめる。「付和雷同するのではなく独自の道を歩みなさい」という意味だ。これは経営にも当てはまる。


「方法論」は短期で取得できるが、「道」にたどり着くにはそれなりの時間がかかる。道は経営者として生きてきた証しでもある。長い年月をかけて、多くの人の話を聞き、たくさんの本を読み、失敗や成功の体験を積み上げて初めて導き出せる「あるべき姿」なのだ。


世の中は常に変化している。現代は、そのサイクルが短くなっている。経営者が時代の変化を見誤れば、優れた技術や人材があったとしても生き残れない。


経営者のあるべき姿は、よく学び、そこから導き出した理念に基づいて、勇気を持って人の行かぬ道を歩める人。そして、時代を読みながら、次世代の経営者や社員たちのために必要な研究開発投資ができる人。


商品がヒットすれば当然売り上げは伸びる。しかし、その後に衰退期が必ずやってくる。ヒットを長期にわたって出し続けることは困難だからだ。


経済環境の変化は会社の経営に大きな影響を与える。だが経営者ならば、どんな環境が訪れても会社を安定させられる手段を常日頃、考えておかなければならない。


常日頃、仕入れ先を大事にし、顧客を大事にし、社員を大事にしていれば、おのずと口コミで「あそこは本当に良い会社だから、同じようなものを買うならあそこの会社から買おう」と言われるようになる。


「ブームで得た利益は、一時的な預かりものにすぎない」と捉え、過大な設備投資などは控えるべきだ。長い目で見れば、自社の実力通りにしか帳尻は合わないものである。


需要が急に高まった時に、一時的なブームなのか、自社の本当の実力なのかを見極めることは難しい。普段は実力を分かっているつもりでも、いざブームが到来すると、我を忘れて設備投資に踏み切った結果、痛手を負ってしまう経営者が多い。


会社とは、社員の幸せを高めるために存在している、というのが私の信念だ。売上を増やすのも、利益を上げるのも、社員を幸せにするための手段にすぎない。


幸せを追求するのであれば、経営者は会社を急速な勢いで拡大させてはならない。急拡大の反動で会社が縮小し、社員を不幸にしてしまう恐れがあるからだ。


私は急成長は否定しますが、大きくなること自体を否定しているわけではなく、むしろ成長はすべきなんです。問題は、そのスピードが身の丈に合っているかどうかです。


だんだんよくなっていくのが一番幸せだと思うんです。これを私は「末広がりの幸せ」と言っています。だから、会社もわずかずつでも確実に成長を重ねていく「年輪経営」がいいのです。


私は、決算は本来、三年に一度くらいでいいのではないかと思っています。決算のための経営ではなく、永遠に終わりがない経営をするには、それくらい長いスタンスで見ていかなければいけないような気がするからです。


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塚越寛の経歴・略歴

塚越寛、つかこし・ひろし。日本の経営者。伊那食品工業会長。長野県出身。肺結核により高校を中退。21歳のとき、働いていた材木会社社長から系列会社、伊那食品工業の社長代行に就任することを求められ同社に入社。倒産寸前だった伊那食品工業を大きく成長させた。主な著書に『いい会社をつくりましょう』『リストラなしの年輪経営』『幸福への原点回帰(共著)』など。日本寒天工業協同組合理事長なども務めた経営者。主な受賞歴に、科学技術庁長官賞(科学技術振興功績者表彰)、農林水産大臣賞(リサイクル推進協議会)、黄綬褒章、優秀経営者顕彰制度最高賞最優秀経営者賞(日刊工業新聞社)など。

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