田村次朗の名言 一覧

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田村次朗のプロフィール

田村次朗、たむら・じろう。日本の法学者、弁護士。慶應義塾大学法学部教授、専攻は経済法・国際経済法。交渉学に関しても詳しい。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、ハーバード・ロースクール修士課程修了。その後、慶應義塾大学法学部専任講師、アメリカ企業公共政策研究所、アメリカのシンクタンク・ブルッキングス研究所研究員、上院議員事務所立法担当スタッフ、ジョージタウン大学ロースクール客員教授を経て、慶應義塾大学総合政策学部教授、法学部教授。そのほか慶應義塾外国語学校校長などを務めた。

交渉のポイントは揉めない議題を先に配置するということだ。


交渉は相手を納得させるプロセスである。しかし説得を試みると、相手は決して納得しないというパラドクスが存在する。交渉の達人は決して説得せず、聞き役に徹することで、要求の不当さを相手自身に悟らせるのである。


私の経験上、交渉の達人はみな聞き上手である。そして聞き上手とは、相手に決して反論することなく、相手が思いのたけを存分に吐き出すまで、ひたすら聞くことに徹する人のことを言う。相手はひとしきり感情を吐き出すと、「黙っていないで何とか言え」と迫るだろう。達人はその段階でも決して反論はしない。相手の言い分の中で最も不当だと思われる部分を、二度三度復唱するのみである。「確認しますが、つまり値段を下げて、しかも納期も早めろとおっしゃっているわけですね」と。やがて相手は自らの不当さを自覚して冷静さを取り戻し、自らの要求を後退させていくことになる。


交渉の手順において大切なことは、常に「客観的基準を示す」姿勢を維持することである。いくら新たな選択肢を創造したとしても、交渉相手は常に「うまく口車に乗せられたのではないか」という不安を心のどこかに抱えているものである。そうした不安を払しょくするには、客観的な基準を示す姿勢が必要である。


交渉の場で新しい選択肢を創造するカギは、ムダ話の中にこそ転がっている。ブレスト(ブレインストーミング)によって新しい選択肢を創造するなどというと身構えてしまうかもしれないが、選択肢創造のポイントは「既存のものの組み合わせを変える」ことにある。何もこれまで世の中に存在しなかったものを生み出せというのではない。新しい組み合わせによって、新しい価値の創造を模索していくのである。


双方の利害の相違が明確になった場合に重要になるのが、双方の利害を調整しうる選択肢である。相手のいる交渉では、準備した利己的な選択肢は、相手の利害を織り込みつつ、新たな選択肢として生まれ変わっていく必要がある。新たな選択肢を創造するために最初に行うべきは「武装解除」である。こちらから先に準備してきた選択肢を相手に開示してしまう。どちらかが先に武装解除しない限り、双方が懐疑心を捨て去ることはできない。武装解除をしたら、相手とブレスト(ブレインストーミング)を行う。


交渉が紛糾した場合は、いったん、立場を離れて議論することを提案する。あるいは交渉とは別立てで、約束抜きの自由な討議の場を設けてもいい。そうした場で、互いの共通の利害とは何かを話し合い、共通の利害が確認できたところで、再び交渉のテーブルに着く。アメリカではすでに、こうした手順で労使間交渉を行うことが常識となっている。


経営者と労働者側は、言うまでもなく立場が違う。それゆえ、賃金交渉は必然的に紛糾するものと労使双方が思い込んでいる。しかし、立場をいったん離れて互いの利益に着目してみると、実は労使は意外に多くの利害を共有していることがわかる。そこから、問題解決の糸口が見つかる場合が多い。


交渉相手に不快感が募ると交渉がこじれてしまうことは、容易に想像がつく。腹の中では相手に理があると思っても、負の感情を抱いていると「そうは思わない」という反論が口をついて出てしまい、売り言葉に買い言葉の引き金を引いてしまう。しかし、人と問題の分離ができると、不快な相手とでも冷静に交渉を進めることができる。人と問題を分離するには、「人」ではなく、「問題」を相手に交渉を行っているという意識を常に持つことである。


多くの交渉が駆け引き型交渉に陥る最大の原因は、準備の段階で二分法的に二つの選択肢しか考えていないことにある。これを捨てない限り、交渉は必然的にパイの奪い合い、ゼロサムゲームへと堕ちてしまう。自動車会社と部品メーカーの価格交渉の場面を考えてみると、通常、自動車会社が準備する選択肢は「部品単価を1000円引き下げさせる」と「さもなければ取引を中止する」の二つである。部品メーカー側に一方的に不安が残り、win-winの関係は形成されない。


交渉の目標はあくまでも、最高の目標に設定すべきである。多少非現実的でもいいから、極力高い合意目標を携えて交渉に臨む。多くの人は落としどころを探す「下を向いた交渉」を行っている。視点を上に持っていくことで、落としどころを模索して目標から徐々に後退していく下向き交渉を、双方が協力して高い目標の実現可能性を模索しあう「上を向いた交渉」へと脱皮させることが可能になる。


交渉の達人を自負する人ほど、目標と落としどころを履き違えていることが多い。落としどころを探すことは、あくまでも駆け引き型交渉において、譲歩しあいながら合意点を見出すことに他ならない。いわば痛み分けのスタイルである。この手法を用いれば、確かにとりあえずの合意は達成しやすい。しかし、互いに少しずつ不満を残した合意になり、交渉によって新しい価値を創造することにはつながらない。


難航が予想される交渉ほど、ビジョンを準備する重要性は高まる。また、困難な交渉におけるビジョンは社会貢献や社会的責任の完遂といった崇高さを持っていた方がいい。なぜなら、次元の高いビジョンほど、離れた立場を引き寄せる力が強いからである。


相手にビジョンを伝えることで、交渉の場は闘争の場ではなく、ビジョンを達成するため互いに知恵を出し合う創造の場へと転換していく。


交渉の事前準備はまず、ビジョンの設定だ。ビジョンとは、目先の合意目標ではなく、交渉の成功によって実現されるべきものである。たとえば価格交渉であれば「新しい商品を世に送り出すことによって社会に貢献する」といったビジョンが考えられる。なぜビジョンを考える必要があるかと言えば、目先の合意目標に双方の視点が固定されると、交渉は必ず暗礁に乗り上げるからだ。


交渉上手を自負する人ほど、出たとこ勝負にかけてしまう。しかし、交渉のテーブルに着く前に、たとえ10分でも事前準備を行うかどうかで、交渉の成否は大きく分かれることになる。


交渉で双方が真に勝者になるには、パイの拡大が必須だ。相手と交渉することにより、双方の利益が最大になる「原則立脚型交渉」を目指すべきなのである。原則立脚型交渉とは、当事者が互いの利害に立ち戻って考えを巡らせ、双方が満足できる結果を生み出そうとする試みを指す。


交渉に自信を持っている人ほど「場当たり的な交渉」に陥っている。私は国内の大手企業向けに、交渉をテーマに研修を行っている。ビジネスマンからの交渉に関する話で実感したのは、約9割の人が小手先のテクニックを駆使してパイの奪い合いをする「立場駆け引き型交渉」に終始しているということだ。駆け引きによって「負け」を少なくし、それを「勝った」と解釈している人が多い。


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