伊藤高明の名言 一覧

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伊藤高明のプロフィール

伊藤高明、いとう・たかあき。日本の殺虫・防虫技術開発者。愛知県出身。名古屋大学農学部農学研究科修士課程(害虫学専攻)修了後、住友化学に入社。同社農業化学品研究所にて農薬、木材保存剤、衛生害虫防除剤などの研究を行う。住化ライフテク出向を経て、住友化学生活環境事業部海外マーケティング部にて家庭用殺虫剤の開発・普及活動を行う。マラリア感染予防のための蚊帳「オリセットネット」を開発。同製品をアフリカや他地域で普及させ、多くの人命を救った。

私は研究所で20人以上の部下がいても、部下の指導というのは仕事の半分ぐらいにしておいて、極力、部下には自由に仕事をやらせ、あとの半分ぐらいで個人としての研究をやっていました。蚊帳もそんな研究のひとつだったんです。


上司の目線から痛感したのは「研究内容は机の上に反映されている」ということかな。机の上が散らかっているやつって、実験を文書にまとめず、次の実験をやるの。すると、前の実験をもとに範囲を絞っていないから焦点がプレちゃう。「君の頭の中は机の上と同じ」とは、よく助言をしましたね。実験結果を毎回まとめて仮説を立てて、同僚にちゃんと目的を説明できて、というのがいい開発者なんじゃないかと思っています。


国際的なビジネスにおいては、現地の人たちに貢献できなければ仕事は長く続けられません。だから、うちもタンザニアの工場に対して蚊帳を製造する技術を無償で供与しました。それによって3000人以上の雇用が生まれているわけです。個人の研究からはじまった商品が、いま、アフリカの現地における経済の一部になってくれているんですよね。うれしいことなんです。


ヨーロッパの学者は「蚊帳に薬剤を塗ればマラリアの感染予防になる」という実験結果を発表していました。私は会社員だから、仕事は商売にしなければダメです。蚊帳に塗る薬剤って1セット15グラムぐらいで済んでしまうから、薬剤だけではビジネスにならない。それなら、と考えました。住友化学は総合的な化学会社です。他の部門の研究者との交流もある。私はそこで知った社内の樹脂加工技術を活用し、樹脂に殺虫剤を練りこんだ「防虫網戸」なんてニッチな商品も作っていたんですよね。防虫網戸はあまり売れなかったですが、蚊帳を開発するのに必要な技術は、もうそこにあったんです。


化学会社における基準としては、だいたいの目安として「100億円の売上があった商品は、新しい化合物を作ったのと同じぐらいの成果である」と考えられています。今、オリセットネットは1セット5ドルで年に3000万セット作っているから、年に150億円ほどの売り上げがあるんですね。新しい化合物を作ったくらいの成果を上げられているなんて、と、その結果には驚いているんです。


そもそも「ほかにやる人もいないだろう」という視点でベクターコントロール(感染症を媒介する虫などを薬剤で制御すること)に興味を持っていましたし。研究者は世界のあちこちにいるけど、ベクターコントロールの製品を作れるのは民間企業だけだ、という醍醐味も感じていました。もちろんサラリーマンですから、そのつどの会社の方針には絶対に逆らわないってことも大切ですよ。自由に研究と言いましても、私はつねに会社の方針の範囲内で研究を探していました。


主力商品というのは関わる人数も多く、工程も細分化され、なかなか自由にはできませんよね。でも「それまでなかったもの」なら自由に開発できる。だからマラリア感染予防蚊帳オリセットネットの場合にも「人の命が助かるといいな」という思いと同時に「いままでにないものを作れないかな」という遊び心が結果に結びついたんじゃないですかね。


いま、年間に何千万セットも売れ、たくさんの命を救っている商品になっているマラリア感染予防蚊帳オリセットネットは「まぐれ」の商品だけど、私はそもそも「まぐれ」になるような製品ばかりを自由に開発してきました。自由に開発できるものって、新開拓というか「なかったもの」なんです。ラワン材の防虫剤(ヒラタキクイムシの駆除)も、カプセル型のシロアリ用殺虫剤も、それまで会社が手がけていなかったものでした。


マラリア感染予防蚊帳オリセットネットが売れない時代には、社内で「在庫なんて焼いてしまえ」という話まで出ていたので、処分するぐらいならば、と2001年にはWHO(世界保健機構)に、20ドルの蚊帳を7ドルか8ドルほどで売りまして……。半額以下で渡してしまうほどの状況だったんです。ここでWHOに渡した1万8000セットの蚊帳は、8ヶ国に配られていきました。そのとき叩き売りのように託した蚊帳を使った結果があがってきて「感染予防にものすごく効果的」と出たんです。それまで売れていなかったオリセットネットに、2002年にはWHOから20万セットぶん、イラクへの国際援助ということで大量に注文が入りまして……「やった!」と。あれはうれしかったな。祝杯をあげたんじゃなかったっけ。それからは着実にビジネスになっていきました。


マラリア予防用の蚊帳を開発しはじめたのは、1980年代の後半でした。ポリエチレンの樹脂にピレスロイドという殺虫剤を練りこみ、そのポリエチレンで糸を作って蚊帳に編んでいくから、5年間は洗濯を重ねても殺虫効果が残る。これは2004年にアメリカの「タイム」誌では世界一クールな技術と褒めてもらいましたが、はじめは「どうやったら売れる新商品ができるのか」を端緒に生まれたものなんです。


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